それでも新婚当初、私はアイテと話したかった。
他人同士が結婚したのだから、
どんどん話し合って、理解しあって、
そして夫婦として成長していって・・・
揺るぎない夫婦関係ができて、
いつか子供に恵まれて、
二人で協力しあって子供を育てていく。
そういう理想を持っていた。
そうなると信じて疑わなかった。
だから、彼にも私の思いを話した。
「そんな触り方じゃドキドキしないよ・・・」
セックスについてこちらからリクエストをするなんて、
恥ずかしくていやだったけど、がんばって伝えた。
アイテは、まったく反応なしだった。
ようやく、吐き捨てるように出てきた言葉は、
「ドキドキなんて、最初につきあったヤツ同士くらいでしょ。」
そうかなぁ。
私だったら、まずはパートナーが今の状態に満足していないのだったら、
相手の気持ちを理解しようとするけどな。
相手のリクエストに100%応えることができないにしても、
相手が不満に思っているのだということは理解するけどな。
そしてアイテは、「話し合う」ことが出来ない人種だった。
「話し合う」、それは、「罵り合い、相手を非難すること」と
同義らしい。
それはアイテの生育環境からして、そうなってしまったのは
仕方ないかもしれない。
アイテは田舎の男三兄弟の真ん中。
すべての責任と権利は長男に集約され、次男(アイテ)、三男には
なんの意見も求められない。
意見を言う権利もない。
うまいこと、自分の意見も持たないような人間に育てられていた。
自分の意見は言わない。
言わない・・・だと思っていた。
違う。
自分の意見を持たない人間だった。
ましてや他人への思いやりなんて、アイテのなかには
カケラも育っていなかった。