今回は前回の続きです!
前編ではコロナウィルスによる医療崩壊とはどんなものかについてお話ししました。
医療崩壊とは以下の3つのうち1つ以上を
満たすものです。
- 病床の不足
- 設備の不足
- 医療者の不足
このどれが欠けても適切な医療が提供されません。
その中で特に3番が深刻な問題であると僕は考えていて、今回はその点について分かりやすく説明していきたいと思います。
それでは今回もよろしくお願いします!
*なお、本シリーズでは一般の方に分かりやすいことを優先しております。難しい医学用語や詳細な病態についての内容を避けておりますので、医療者の方はその点ご了承ください。
【目次】
1.コロナウィルスの重症例
2.人工呼吸器とECMO(エクモ)
3.専門スタッフの不足
【1】コロナウィルスの重症例
コロナウィルスの重症例は肺炎です。
肺炎では肺の空気交換が上手くいかずに
酸素不足になります。
放っておけばチアノーゼになり、
酸素不足によって死んでしまいます。
そのため、酸素の数値を上げるように対応していくわけです。
対応策としては
- 酸素吸入
- 人工呼吸器
- ECMO(エクモ)
という順で対応します。
ちなみに前回もお話しした通り、
現状ウィルスを根本的に退治する治療薬や
ワクチンは存在しません。
そのため、
「不足した酸素をサポートしている
うちに自然治癒するのを待つ」
というのが基本方針です。
肺炎と言ってもその中には
10段階中1や2の軽い肺炎もあれば
9や10の重い肺炎まであります。
軽いものであれば酸素を吸入すれば十分です。
ただ、重症になるにしたがって酸素吸入だけでは不足します。
すると
人工呼吸器を使用し、
ついにはECMOを使用する
ことになります。
次に人工呼吸器とECMOについて説明していきます。
【2】人工呼吸器とECMO(エクモ)
図の通り、
人工呼吸器は肺の機能を助けるもの
ECMO(エクモ)は肺の代わりをするもの
です。
例えば、あなたの具合が悪い時の仕事に
置き換えて考えてみましょう。
(コロナはいちど置いておいて、普通に調子が悪い時です)
少し具合が悪いくらいだったら、
栄養ドリンクでも飲んで自分で頑張りそうですね。
⇒これが酸素投与にあたります。
かなり具合が悪かったら
人に自分の仕事を手伝ってもらう必要があります。
⇒これが人工呼吸器の段階。
あまりにも具合が悪くて仕事にならないようなら
代理を立てる必要があります。
⇒これがECMOの段階です。
重症度とともに提供される医療レベルが上がっていくわけです。
もう少し詳しく説明すると
人工呼吸器は
喉に入れた管から酸素を送ります。
“酸素投与と何が違うの?”と思う方もいるかもしれませんが、人工呼吸器の場合は酸素を機械の力で押し込むため、本人が頑張って呼吸をする必要がなくなります。
ECMOは
体から外に血液を引っ張ってきて、酸素を溶かして体に戻します。
つまり、普段肺が行っている仕事を機械が代わりにしてくれるわけです。
すると、肺はしっかり休むことが出来ますね。
【3】専門スタッフの不足
僕は
「医療崩壊の最も深刻な原因は医療スタッフの不足である」
と言いました。
その理由をすごく簡単に言うと、
「人工呼吸器やECMOの管理はとても難しい」
のです。
単純に知識や技術の面で難しい上に、
医師だけでなく看護師、臨床工学技士など
多職種の連携によってようやく管理できるのです。
あるとき僕は自分の担当患者さんを人工呼吸器、ECMOなどで管理していました。
状態が悪くて、1時間ごとに採血をして設定の微調整をして、というのを張り付いて48時間続けたことがあります。
それでもなお、
その患者さんの命を救うことは出来ませんでした。
人工呼吸器という言葉は良く聞くと思いますが、医者だからといってみんなが扱えるわけではありません。またそれは、看護師や臨床工学技士といったスタッフにも同様のことが言えます。
つまり、一般の方が思っている以上に人的資源は
限られています。
(施設によるのですが)僕の肌感覚で言うと、
医者を100人集めたとして人工呼吸器を扱えるのが10人、ECMOを扱えるのは2, 3人くらい
かと思います。
(小規模な病院では扱える人が1人もいないこともありえます。)
病床や設備については時間をかければ
確保できます。
そもそも日本の人口当たりの病床数は世界でも多い方ですし、呼吸器やECMOは現状でフル稼働しているわけではありません。
しかし、医療スタッフの技術向上には非常に時間がかかります。
技術力10のスタッフが技術力100になるまでには相当の訓練が必要です。
さらにもう1つ大事なことを言います。
医療に関しては口に出しにくいことですが、
僕たちはいつも「失敗しながら学んでいく」のです。
(もちろん大きな失敗をしない努力は前提です)
技術力100のスタッフを増やしていくまでに必ず
「技術力100であれば助かった人」
「技術力50であれば助かった人」
が出てきます。
多職種のスタッフがチームとして当たるため、状況はさらに複雑です。
看護師の仕事を医師がカバーしたり、臨床工学技士が医師の代わりをすることは出来ないため、総合力が問われるからです。
おそらく今、各病院は人工呼吸器、ECMOを管理するためのスキルアップに尽力しているはずです。
また、今後重症患者さんが増えるに従い、医療スタッフは量的にも質的にも不足します。
医療崩壊を起こさないために。
適切な医療が大切な人に届くように。
僕たちは日々の生活を考えていかなければなりません。
【最後に】
今回は医療崩壊の最も深刻な原因である医療スタッフの不足についてお話しさせて頂きました!
どなたかの行動が変わることを願って、この記事を終わらせて頂きます。