サルサクラブに行ってきた。


雑居ビルの小さなエレベーターに乗りいつものサルサクラブに到着する。

都会のど真ん中にあるサルサクラブだが、ビルが古いことが影響しているのか大都会という感じがしない。どこか台湾とかグアムの寂れた観光地のディスコのような雰囲気。窓から外を見て始めてここが大都会だと分かる。

その日は、比較的早い時間からレッスンが開催されているとネットで見て時間に合わせて行った。小さなフロアーの中には10人程度の男女が集まっている。


まだレッスン開始まで時間があるのか皆壁際に並べられた椅子に座って知合いなのか談笑している。自分だけ何もしゃべっていない時間が、結構苦しい。一番近くにいた背の高い女性にしゃべりかけると結構気さくに話してくれて何とか時間がもった。


 

そしてレッスンが始まる。オーナーの若い男性が先生になって教えてくれる。男性側、女性側に分かれてどんどん相手を変えてレッスンが進んでいく。他の店よりも圧倒的に分かりやすい。ここで習っていたら踊れそうな気がしてくる。


そしてレッスンが終わるとフリータイムになり、男性女性がそれぞれに手を取り合って踊りだす。まだまだ初心者の僕には、積極的に女性を誘って踊ることは結構精神的にパワーのいることだが、さっきまでレッスンで一緒に踊っていた人を誘って何とか踊ってみた。まだまだ踊っているうちに入らないと思うが、何となくステップだけは踏めるようになっている。


しばらく踊って休憩しているとレッスン前に話しかけた背の高い女性が休んでいるのが目に付いた。身長170センチくらい。もちろん日本人だと思うが、少し中東アジアの目鼻立ちのする顔立ちで、きゃしゃではない立派な体格のあまり垢抜けない感じの女性だ。そしてその女性に話しかけた。

「どうですか?踊っていますか?」

「はい、踊っていますよ。」

「ここは、よく来るのですか?」

「今日で2回目ですかね。ていうか、ここの人って背が低くないですか?ほら、男性の背。」

「ええ?そうですかね~。」

「やだ~、絶対低いですよ。私、ここは場違いじゃないかと思うの。だって、私、背が高いでしょ。多分、みんな踊りづらいと思って。もっと男性が高くないと踊れないような気がするんです。」

「そうですか?そんなことないと思うけど。え!僕は大丈夫ですか?(笑)」

「ほら、あの人とか。絶対低いよ。あ、あなたは大丈夫です。私ね~、ここ来るのやめようかな。みんな、何でこんなに低いの~。やだ~、私が腰を折らないといけないでしょ。」

「猫背になっちゃだめですよ。」彼女の背中を触ってみた。

「うん、そうですね。分かります。でもね~、ちょっと。他のお店ではもう少し高かったんですよぉ。ここはね~。ちっちゃ~。」

「・・・・・・」


この女性、無茶苦茶なことを言っている。ここに来ている男性の身長が低いと言う。普通なら相手にしないのだが、この女性は、自分自身背が高いということにコンプレックスを持っているようで成り行きで話を聞く状況になってしまい、全てYESで聞いてあげることにした。


170センチってそんなに高いのだろうか?彼女の話を立ったまま聞いているが、目線は僕より下だし、僕としては全く気にならない。それでもフロアーでは、165センチくらいの男性が踊っていて、彼らからする170センチは高いと感じるのだろうか?いや、そんなことはないと思う。彼女の強烈なまでのコンプレックスを聞いていると彼女の愚痴を完全に否定する気にはなれないし、今の彼女に何を言っても無駄だと思う。

サルサが流れるお店の中で10分ほど彼女の愚痴を聴くと、どちらから誘うわけでもなく手が触れて踊ることになった。さっきまでしゃべっていた彼女は急に黙って何かを吹っ切るように踊り始めた。彼女も比較的初心者だと言っていたが、それでもリズム感よく踊り始める。


彼女の積極的な踊りに乗せられて初心者の僕も気分が乗ってきて、つられて踊りだした。指の絡み方が大人の絡み方になってくる。二人の体も密着して当たり前のように二人の膝が絡み始める。手を繋いでリズムを感じることで彼女の心が何か開放されたような気がする。彼女の恍惚の表情を間近に見ながら、さっきまでの愚痴を忘れるかのように踊っている彼女。店内に響くラテンの音楽で聞こえはしないが、彼女の搾り出す吐息が聞こえそうな感じ。彼女は自分のコンプレックスを吹っ切る為に顔に掛かる長い髪の毛も気にせずますます音楽に入っていく。それに乗せられて僕も何か突き抜けたような感覚になる。

二人の指は、ますますねっとりと大人の絡み方になっている。

彼女の両膝が僕の右膝を温かく柔らかく包み込んでくる。


ふと、自分のオスとしての本能が刺激されていることに気付く。僕はこれ以上彼女に近づくと、沼のような深い場所へ引き込まれそうな気がして、彼女に気付かれないように腰を引き気味になって踊った。指は、絡めたままで