犬を連れたルネとジョルジェット
Rene and Georgette Magritte with Their Dog After the War
この曲は2018年に再録音されたときにブログで取り上げたが、今回は1983年オリジナルレコーディング時のDemo音源で、なんと、アート・ガーファンクルのソロボーカルとハーモニーがきっちり入っているではないか。リリースされて40年後、やっと陽の目をみたのである。昔、アートのボーカル入りと銘打たれたブート(海賊盤)が発売されたことがあり、飛びつくように買ったが、案の定、騙されてしまった(泣)
アートの声、どこに入っとるんじゃあ~!!
レコーディングに至る経緯はこうである。1981年にセントラルパークで再結成コンサートが行われ、50万人以上の観客を集めた。その後、二人で世界ツアーを実施(日本でも甲子園や後楽園でコンサートが行われた)。その流れで、ポールの新しいソロアルバムHearts and Bonesにアートが参加、S&G名義でアルバムがリリースされることになり、レコーディングも行われた。だが、ふたを開けるとアートの名はどこにもなかった。その理由は、(またしても)二人の喧嘩別れだった。ポールはアートのボーカルをすべて消去し、ソロアルバムとしてリリースしてしまったのである。
アートはその時のことをこう言っている。
「ポールはS&Gとして500万枚アルバムを売ることより、ソロとして50万枚売ることを選んだ。彼は醜いエゴイストだ」
一方、ポールの言い分は、
「これは僕の個人的なアルバムだからね」
二人の気持ちは理解できる。アートが言うように、ポールがエゴイストであることは間違いないが、このアルバムの内容はポールにとって、きわめて個人的なものばかりなのだ。ちょうど、キャリー・フィッシャーと結婚した頃で、Hearts and Bonesという曲は、彼女のことを歌ったものだ。だが、キャリーの薬物中毒が手におえず、わずか3か月で離婚している。アルバムの音楽的レベルは非常に高かったが、アートの言う通り50万枚しか売れず、ポールはかなり落ち込んだ。その後、1986年にアフリカ音楽を取り入れた「グレイスランド」が500万枚以上売れ、グラミー賞を獲得、ポールは復活した。だが、ぼくはどうにも肌に合わず、ポールからしばらく距離を置くことになった。
アルバムHearts and Bonesでアートがボーカルを入れたものは初めから3曲しかなかった。
月に捧げる想い
遥かなる汽笛に
犬を連れたルネとジョルジェット
二人のコンビネーションはレコーディング途中で崩壊し、頓挫してしまったのである。
このアルバムの中でポールがアートのボーカルを想定して作ったのは、「犬を連れたルネとジョルジェット」のみだ。サビの部分はアートが美しい高音でのびのびと歌っている。ぼくはS&Gバージョンがいつか聴けるのではないかとずっと待っていた。それは聴いてわかるように、とても素晴らしい出来で、初めて聴いたときは思わず涙が溢れた。
明日に架ける橋
Bridge Over Troubled Water
ポールの弾き語りによるデモ。
オリジナルのアートのソロボーカルがあったからこそ、この曲は世界的に大ヒットした。
アートは初めてこの曲を聴いた時、
「ポール、君が歌うべきだ」
と言ったらしい。ポールはファルセットを使ってうまく歌っていたとアートは言う。
「アート、君のために作ったんだから、君が歌ってくれ」
これはポールの言ったことが正解で、もしもポールがソロを取っていたとしたら、あれほどまでにはヒットしなかっただろう。
夢のマルディグラ
Take Me to the Mardi Gras
ポールの弾き語りによるデモ。オリジナルバージョンのサビはポールではなく、ゴスペル歌手であるクロード・ジーター牧師がファルセットで歌っている。たぶんポールは高音を歌う自信がなかったのかもしれない。デモを聴くと、なるほどと納得した。ポールはサビのみ1オクターブ下げて歌っているのである。
Paul Simon
