ショートショート 20年後の同窓会 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

高校卒業後20周年の同窓会の開催通知の葉書がきた。会ってみたいと思う同級生が数人いたので出席することにした(会いたくない人もいるけど)。ドキドキしながら会場のあるANAホテルに着いた。会場には数百人の同級生たちで溢れ返っていた。あとで聞くと、480人中、280人出席していたそうだ。

 

会場に入ると、高3のクラスごとにテーブルが別れており、うちのクラスは18人ほど出席していた。ひとりひとり顔を眺めると、誰だか解らない女子が4人ほどいた。化粧が濃い過ぎて解らなかった女子が2人、顔やスタイルがあまりにも変わり過ぎて解らなかった女子が2人である。やはり40歳近くになると、歩んできた人生が顔や醸し出す雰囲気に出るものだと実感した。特に女子は、若々しくきれいで体型も高校時代とあまり変わってない人と、思いっきり老けて人生に疲れきったようなおばさん顔になった人と、極端に分かれていたような気がする。男子も腹が出たり、頭が禿げたヤツとかいるが、女子ほど極端ではない。

 

「おまえだけは、まったく変わってないなぁ、若いよ、若い!」

俺はクラスメイト数人からそう言われた。複数に言われたということはお世辞ではないのだろう。たしかに体重はまったく変わってないし、髪の毛はふさふさしてまったく禿げてないし、白髪もほとんどない。クラス担任からは「おまえは良い歳の取り方をしてるな」と言われたが、裏を返せば、自分ひとりだけ大人になり切れてないのかもしれない。

 

俺は高校2年まで女子とほとんど話したことがない。女子が苦手だったのだ。ところが、3年のクラスは男女仲が良く、女子とも話す機会が増えた。そして、なんと同じクラスの女子、A子とつき合うことになった。人生初の彼女だった。だが、ふたりきりになると、また以前の情けない自分が顔を出し始め、緊張でスムーズに話せなくなってしまった。当然フラれてしまった。つき合った期間は僅か3か月だった。今回の同窓会にA子は来ているのだろうか…少し気になったけど、彼女は欠席だった。会場に着くまでは、会いたいような、会いたくないような複雑な気持ちだったが、会えなくてどこかホッとしている自分がいた。まだ心のどこかで意識しているのだろうか。

 

3年のクラスメイトでは、A子以外に2人ほどよく話をしていた女子がいた。今回の同窓会では、そのうちの1人が出席していた。名前はY美。とても可愛く優しい女子だった。俺がフラれた時に映画につき合ってくれ、慰めてくれたのだ。はじめからY美にアタックすればよかったと、あとで後悔した。俺は高校時代は話さなかった下ネタをY美に振りまくった。Y美はゲラゲラ笑いながらこう言った。

「秋くん、変わったねぇ。そんなこと話すような人じゃなかったのに~」

「変わってねぇよ。男は一皮むけばみんなスケベなんだぜ~」

と言いながら、俺はY美の指を握って輪っかを作り、自分の人差し指をY美の輪っかの中に突っ込み、上下動させた。

「もぅ、なにするん~」

「まだ、いけるだろ? 同窓会抜けて、行こうぜ。ラ・ブ・ホ」

「あはははは! だめよ、だめだめ」

Y美は高校時代から抜群に可愛かったが、20年経った今もまったく変わっていないというか、さらに女の色気も身に纏っていた。

 

クラスメイトの中でほとんど話したことなかったR子という小柄で可愛い女子がいる。実はR子とは、同窓会の前にふたりだけで数回会っていた。初めは同窓会の2年前、スーパーで偶然会ったのだが、声を掛けてきたのはR子だった。

「あら、秋くんじゃない? 久しぶりねぇ」

卒業後、何度かクラス会があった時に、よく話すようになり、ある程度親しくなっていたのだ。

「だよねー。今度カラオケにでもいかない?」

と軽く誘うと、

「いいよー、いつでも連絡して」

 

その後、R子とは何度か食事をしたり、カラオケへ行ったりした。だが、深い仲にはならなかった。その頃好きになった一回り年下の女、F華のことをR子に相談していたからである。R子は「応援するよ」と言ってくれた。そんなR子と深い仲になるわけにはいかない。R子の後押しもあって、勇気を振り絞り、F華に告白したが、見事に自爆してしまった。F華には他に好きな男がいたのだ。

 

R子は落ち込んでいた俺を慰めてくれた。そして、いつの間にかR子の気持ちは、同情から愛情に変わったのだろうか、酔い潰れた俺にキスをしてくれた。そのことをきっかけに、ふたりの関係はずぶずぶと深い泥沼に入っていった。というのは、R子は既婚者で子供もいたのである。R子は夫と性格が合わず、喧嘩ばかりしていた。そして約10年間、セックスレスだという。だから、息の詰まりそうな家を出て、外で発散したかったのだろう。今度は俺がR子の相談相手になった。

 

同窓会にはR子も出席していた。

俺の姿を見ると、ウィンクしながら、

「オッス!」

と親し気な挨拶をしてきたので、俺は、

「メッス!」

と挨拶を返した。

クラスメイトの男たち数人が、

「おいおい、おまえら、なんか怪しいな」

とからかってきたので、俺は優越感を覚えながら、冗談めかして言った。

「やっぱり解った? デキてるの」

「ついにバレちゃったね~」

R子も冗談っぽく返した。

デキていると冗談めかして肯定した場合、誰しもほんとうにデキているとは思わないだろう。もちろん、それが狙いだった。

 

だが、R子とは同窓会を最後にほとんど会えなくなってしまった。夫の転勤が決まり、県外に引っ越すのだという。俺はR子を奪い取るほどの強い気持ちにはなっていなかったし、R子の俺に対する気持ちも似たようなものだった。なにより子供を不幸にすることはできないと。ふたりの気持ちは、まだ十分に熟していなかったのだ。そして、一緒にいる時間はどんどん少なくなり、ふたりは別離を余儀なくされた。

 

この同窓会をきっかけに、かつて高校時代につき合っていた数組のカップルたちの不倫がはじまったそうだ。やけぼっくいに火がついたというか、青春の輝かしかった日々が蘇り、かつてのトキメキを取り戻したのだろう。だがその後、いずれかのカップルが成就したという話は聞かない。

 

俺とR子は、高校時代のつき合いはまったくなかったし、大人になってからのつき合いは誰も知らなかったはずだ。ふたりとも注意深く、慎重で、口が堅かったからである。

 

R子が県外に引っ越してから数年が過ぎた。互いのほんとうの想いはどうだったのだろう。少なくとも俺は過去の恋愛の中では、一番思い出すことが多いし、今でもしょっちゅうR子の夢を見る。未だに心の奥深くに沈潜しているこの想いはいったいなんなんだろう。人は手に入れることができなくなったものには、延々とトキメキ続けることができる。それはとても幸せなことなのかもしれない。

 

(了)

 

ストーリーは、ほぼフィクションです。