Lizard Crimson | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

Lizard

このアルバムは前期のキング・クリムゾンの中では異彩を放っている。一言で言うのは難しいが、キラめくような美しい音群が、角度によって様々に表情を変えていく音の万華鏡といったところだろうか。

 

突出しているのはキーボード(特にピアノ)のキース・ティペット、サックスとフルートのメル・コリンズ、その他ゲストたちの管楽器類によるジャジーなセンスである。それらの音がロバート・フリップの冷たく研ぎ澄まされたギターとメロトロンの音に絶妙に絡んでくる。

 

クリムゾンがベスト盤をリリースしてもリザードからの選曲は滅多にない。一度ベストだか再発だか、されたのを見ると、ゴードン・ハスケルはハブられ、他のボーカリストとベーシストの演奏に差し替えられていた。そもそもレコード会社はゴードンを正式メンバーと認めず、セッション・ミュージシャンとしてのギャラしか支払われていないらしい。可哀想なゴードン(涙)。アルバムのプロモーションのツアーは行われなかった。ゴードンがツアー前に脱退してしまったからである。一体何があったのだろう。制作背景の謎は多いが、音楽的には大変高度で、とても魅力的なアルバムだと思う。

ゲスト・ミュージシャン

 

Cirkus

奇妙なアクセントをつけてハープのようにアコギを弾きまくるロバート・フリップ、ぼそぼそと呟くように歌うゴードン・ハスケル、変則的で繊細なドラムを叩くアンドリュー・マカロック、フリージャズっぽいキーボードを弾くキース・ティペット、管楽器群の咆哮、ふわっと入ってくるロバート・フリップのメロトロンとメル・コリンズのサックスの安息…美しさと狂気の狭間に咲いた仇花のような名曲である。

 

 

Indoor Games

下卑た表現の極致…トカゲの背のように鈍い光を放っている。ゴードンの狂気の笑い声はゲームのラストで。

 

 

Happy Family

 

 

Lady of the Dancing Water

作為のない和と洋の折衷的な美しさ…メル・コリンズのフルートに癒される。

 

 

Lizard 

1.Prince Rupert Awakes 

2.Bolero-the Peacock's Tale 

3.The Battle of Glass Tears

  a)Dawn Song

  b)Last Skirmish

  c)Prince Rupert's Lament 

4.Big Top

 

Prince Rupert Awakesを歌ったのはなんと、イエスのジョン・アンダーソン(ゲスト・ボーカリスト)である。このアルバムのメイン・ボーカリストはゴードン・ハスケルだが、彼がこの曲を歌いこなすには無理があった。やはりジョンのような「天上の声」が必要だったのだろう。

 

Bolero-the Peacock's Taleでは、アンドリューの端正なドラミングが光る。アルバムの素晴らしさは彼の正確無比で複雑なリズム処理に支えられている。なぜこの一作だけで脱退したのだろうか。至極残念。アンドリューは、このあといくつかのバンドを経て「グリーンスレイド」に参加している。今現在はミュージシャンを引退、ヨットの世界にいるようだ。

 

切れ目なくThe Battle of Glass Tearsに突入。3部に分かれている。Dawn Songではゴードンの嘆きのようなボーカル、Last Skirmishでは激しい戦いの様子をフリージャズで、Prince Rupert's Lamentでは不穏なギター、躓くようなベースのリズム…混沌とした世界の果てを見るようだ。一旦、音は閉じる。

 

最後のBig Topは幻想的。夢の中で行進しているような映像が頭の中に浮かぶ。音はテープを早回ししたように早くなり、音程はどんどん上がっていく。やがて遠ざかるようにフェイド・アウト。ひとりポツンと取り残される…。

 

とても絵画的、視覚的。すべての物語はピート・シンフィールドの歌詞とジャケットに描かれている。興味のある人は追ってください。いないか(笑)