俺の足にしがみついた男を
俺は引き剥がそうと蹴りを入れた
男は海中に沈んでいった
油にまみれた海から顔を出して必死で息をした
死にたくないからそばにあった板切れにしがみついた
極寒の海の中で童謡を歌い続けていると
救助船の明かりが闇の中からぼわっと浮かんでいるのが見えた
幻覚ではなさそうだ
俺は腕がちぎれんばかりに手を振った
日本の誇り
故郷の誇り
狂ったイデオロギーが世間を支配しているために
故郷にはおめおめと帰れなかった
一年間も知らない場所をさまよっていた
生命の尊厳
人間の尊厳
それはどうでもいいのか
兄は夢のなかに毎日出てくる
おまえは生き続けなければならないと
「なんでおまえだけ生きて帰ってきたんだ?」
恐る恐る帰郷すると
露骨に蔑む目と言葉が俺を突き刺した
みんなにシカトされた
こんな酷い目に遭うのなら
あの時、海の底に沈めばよかった
俺の足にしがみついた男と一緒に
