意識が崩れ落ちる音を聞いた瞬間、
突然、閉ざされていた過去の自分がフラッシュバックする
浮き出た右腕の血管に当てられた
斜めに切り取られた楕円の針先の冷たい感触……
痛みとバイアスに満ちた過去を手繰り寄せる
まるで覚醒した夢のようだ
男の濁り切ったヘドロのような黒目に映る
私の剥き出しの体は小刻みに震えている
男はからかいへつらうように
薄っぺらな言葉を私に投げかける
「すぐに気持ちよくなるからね……」
とりたてて悲しくなんかない
人はみんな自分自身に夢中だ
誰も私になんか構ってくれないけど
そのほうがラクなこともある
どんなに恥ずかしいことをしたって
どうせ人は誰も見ちゃいないから……
涙が耳の穴に流れ込む
心を閉ざしてしまおう……
無表情で誰とも視線を合わさなければ
誰も私の心を読み取ることは出来ない
その間にステキなことが通り過ぎても
それを知らなければ済むことだ
10年余りの時は寸分の狂いもなく流れていった
いつの間にか歪んだ心の果てに
私の感情は凍てついていた……
だが、僅かな暗闇の隙間から
溶け始めた氷のまろやかさのように
何かが緩やかに現れ始めた……
いったいなに?
それはゆらゆらと揺らめきながら、
徐々に人間のカタチになってゆく……
顔は優しく微笑んでいる
アナタはいったい誰?
アナタは初めからそこに居るの?
アナタはひょっとして……私の一部なの?
アナタは私を……
アナタは素早く左手で私の口を塞いだ
そして、右手で私の心臓を抉り出し、握り潰した
体中の力が抜け、意識が遠ざかってゆく……
2017.6.29
2019.7.2(改訂)
