(再)私小説 間接キス | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

大学で同じゼミにいたM子は、とても可愛い女の子だった。M子に一目惚れした僕は、何とかつき合いたいと思った。でも、昔から女性と話すのが苦手な僕は、M子ともろくろく話をしたことがなかった。何かキッカケを作らねばと、気持ちばかり焦っていた。

ある日、ゼミが終わったあと、コンサートに来ないかと、思い切って誘ってみた。その頃、バンドでギターを弾いていた僕は、度々、コンサートに出演していたのだ。M子は僕の目をじっと見たあと、「少し考えさせて…必ず返事するから」と答えた。体の良い断り文句のような答え方ではなく、真剣に考える風な口調だったので、僕は天にでも昇るような気分だった。「少し考えさせて」と言ったのは、おそらく一緒に行く友だちとの約束を取り付けるために違いない。

でも、それからずっとM子から返事はなかった。僕にあまり興味がなかったのだろうか。コンサートも終わり、M子のことを諦めた僕は、同じ大学の別の女の子とつき合い始めていた。心の片隅にM子のことは残っていたが、つき合い始めたR美とはうまくいっていたので、もう忘れようと決意した。

ある日、M子の姿を学食で見た。M子は見た目ぱっとしない男と一緒にうどんを食べていた。自分にも彼女がいるクセに軽いショックを感じてしまった。少なくても見てくれは自分の方が上なのに、なぜあんな男と……という、トンデモナイ驕りだった。そもそも、彼女につき合ってくれなんて一言も言ってないのに、何て自分勝手な男なんだ、僕は。今考えると、何もかもが未熟で、ツマラナイ男だったと思う。

半年後、ゼミのお別れ会があった。ゼミ仲間が全員出席した飲み会だった。M子とは、コンサートの一件以来、喋ったことがなかった。何か気まずさがお互いの胸の中にあったのかもしれない。ここで最後にM子と話さないと、心に何かが引っ掛かったまま、これからの長い人生を過ごさないといけなくなる。

僕は意を決してM子の隣の席に座った。

「ずっと君のことが好きだったんだ」
酔いに任せて遅すぎる告白をした。

「私もあなたのことが好きだった。実はね……、コンサートに行こうと思って、あなたの家に電話したの」
「えっ! そうなんだ。でも、僕の家の電話番号よく解ったね」
「だって、電話帳で調べたら、あなたの名字珍しいから、市内に一軒だけだったもん」
「誰が電話に出た?」
「お母さんだったみたい。『今、出掛けているので、帰ってきたら電話させます』って、言ってくれたから、ずっと待ってたのに掛かってこなかった」
「何も聞いてないよ。知らなかった……」
「連絡がなかったから、私のことなんて気にも留めてないのかと思って……」

後に母に確認したら、『忘れてた。ごめんね~!』と、軽く言われてしまった。母は悪気はまったくない人だが、忘れっぽいのだ。

「一緒にうどん食べていた彼は?」
「同じ文芸部の先輩。告られてつき合うようになったの。あなたのことは、もうだめだろうと思って……」

なんということだ! もしも、母が僕に伝え忘れなかったとしたら、ふたりの未来は変わっていただろう。その時は母を恨んだが、よく考えると、もっと積極的にM子にアプローチしなかった僕が悪いのだ。

M子は自分が口を付けたおちょこを僕に渡し、
「これで飲んで」
と言いながら、お酌をしてくれた。
M子は僕に対する精一杯の気持ちを表してくれたのかもしれない。

僕は注いでもらった日本酒をドキドキしながら、M子の甘い香りとともに一気に飲み干した。

(了)

2016.7.16
実話率ほぼ100%