詩小説8 Y紀とN子3 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

それから2年の月日が流れた。アパートで一夜を共にしたあと、Y紀と僕は時々会うくらいで、互いに忙しい日常に埋没していた。僕は大学を卒業した後、とある製薬会社に就職し、他県で働いていた。Y紀は僕より1年先に地元の建設会社に就職していた。僕が就職して1年経った頃、突然Y紀から電話があった。


「私…」

「あぁ、Y紀ちゃん? 元気か?」

「うん。あなたは?」

「なんとか頑張ってるよ」

「一度、逢いたいんだけど……そちらに行ってもいい?」

「あぁ……いいよ。久し振りだしね」


僕はフリーだったし、休みの日はヒマだった。学生時代とまったく違った環境で、戸惑うことばかりだった。人と折衝するのは得意だと思っていた僕は、まったく上手くいかず、自信はどこかに飛び散ってしまった。やはり社会は厳しいものだと実感した。


約束した日、Y紀と待ち合わせしたホテルのラウンジに急いだ。Y紀はすでに来て椅子に腰かけていた。あの頃とまったく変わらない姿、懐かしさが込み上げてきた。色々懐かしい話をしながら、車で名所を案内した。Y紀は泊まるつもりで来ていた。僕はずっと安っぽい旅館に部屋を借り、アパート代わりにしていたが、彼女を連れて行くわけにはいかない。車でラブホに入るしかない。それにしてもラブホに入るなんて何年ぶりだろうか。


Y紀は部屋に着くと、すぐにシャワーを浴びにバスルームに入った。ベッドルームからはバスルームが丸見えだ。大きな透明ガラスに仕切られているだけの簡易な構造だからだ。Y紀の綺麗な裸身を久し振りに見た。白くきめ細かな肌と豊かな乳房、艶めかしい腰つきが僕の脳幹を刺激する。僕はY紀の後を追ってバスルームに入っていった。シャワーを浴びている後ろから抱きしめると、「ダメ、恥ずかしい……」とY紀は色気のある声で囁くように言った。僕はその声に、さらに興奮した。


ベッドの中で愛し合ったあと、Y紀から衝撃的な話を聞かされた。Y紀は1か月前に結婚したのだという。初めは冗談だろうと思ったがほんとうだった。

「私、地獄に堕ちるわ……」

「なぜ、そのことを言わなかった?」

「言ったら逢ってくれないと思ったから」


そりゃそうだろう。Y紀はまだ僕のことが好きで、振り切るために最後に想い出が欲しかったのだという。結婚は見合いだそうだ。結婚相手に悪いと思わなかったのだろうか? Y紀の倫理感は明らかに欠けているけど、純粋な想いを素直に受け止めることはできた。切なくも思った。でも、なんだか恐い女だ。僕がどうしてもY紀とつき合うことに踏み切れなかったのは、その小悪魔的な危険な雰囲気を感じ続けていたからなのだ。彼女とはそれ以来、二度と会うことはなかった。


その3か月後、故郷に帰り、久しぶりにDJ喫茶に行ってみた。DJは後輩に受け継がれ、まったく知らない子がほとんどだったが、ひとりだけ僕らの時代に常連客として来ていたJ島という男がDJになり、残っていた。J島はたいそう懐かしがってくれ、「夜飲みに行きませんか?」と誘われたので行くことにした。あと、やはり当時の常連客だったH村をJ島は呼び出し、男3人で飲みに行くことになった。そこで僕はまた衝撃的な話を聞かされることになる。


(Y紀とN子4最終話に続く)




実話率85.67%