詩小説7 J子と僕の軌跡2 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

優しさと暖かさに満ちた空間の中で

僕は陶然としていた

ふと君を見遣ると

君は僕を見つめたまま……泣いていた

涙を拭おうともせず

君はただ、泣いていた


蒼いスポットライトが

ゆっくりと暗闇の中にフェイドアウトしていく

僕はギターを引きずりながら

ステージの下手に向かって歩いていった

その途中 今いたステージの真ん中を振り返った

さまざまな偶然が必然であるが如く

瞬く間に過ぎた30分間に凝縮され

それは僕の中で永遠のものとなった



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コンサートが終わった翌日、J子と僕を引き合わせてくれた友人から連絡があった。J子はもう一度僕とつき合いたいと言っていたと……。それからの約1年間、J子と僕は満ち足りた時を共有した。互いを思い遣りながら、豊かな日々を過ごした。


だが、永遠というものはない。僕がDJを始めてから、いろんな女性が僕の周りを行ったり来たりし始めると、J子はどんどん疑心暗鬼に陥っていった。ことあるごとに、とんでもない誤解をされ、ルーティン・ワークのように喧嘩を繰り返すようになってしまった。


DJ仲間で同時期に入ったR美という女性がいた。R美は僕より3歳年上で、昼間はDJ、夜はどこかの店でクラブ歌手をしていた。さっぱりした性格の女性で僕とは気が合っていたので、よくお喋りをしていたが、決して互いに恋愛感情を持つことはなかった。


ある日の夕方、J子と僕は店で待ち合わせの約束をしていた。僕のDJタイムが終わったあと、デートする予定だった。ところが、待ち合わせの時間になってもJ子は来ない。仕方なく、J子が来るまでの間、たまたま店に居たR美と空いた客席で雑談をしていた。すると、店の奥の方から女性がつかつかとやってきて、僕とR美の間に立った。


「とても楽しそうですね! では、さようなら!」


と、女性は言い放ったあと、踵を返し、出口のレジに向かって歩いていく。

J子だった。J子は、その日、今までとはまったく違った髪型に変えていたので解らなかったのだ。着ていた服もいつもより派手目で初めて見るものだった。髪型は、真ん中分けのストレートでセミロングだったのが、分けるのをやめて眉のあたりで一直線に切り揃え、サイドにはソバージュが掛かっていた。そうとうなイメージチェンジだ。約束の時間の前から、DJブースの中でJ子が来ないかとずっとチェックしていたのに解らなかったのだから。R美もJ子のことはよく知っていたのに、まったく解らなかったと後に言っていた。申し訳なさそうに「J子ちゃんに私、謝ろうか?」と言ってくれたが、R美には何の非もない。「とんでもない。こちらこそ嫌な思いをさせてごめん」と詫びた。


J子は支払いを済ませ、ひとりでさっさと早足で街中を歩いていく。僕はそのあとを追いかけ、腕を掴んで立ち止まらせた。冷静に話をしようと思ったが、案の定、喧嘩になってしまった。


「私よりR美ちゃんのほうが好きなんでしょ? いいわよ、本音を言えば?」

「何言ってるんだ。R美ちゃんはただの同僚だ」

「目線送ったのに、ぜんぜん気づいてくれないんだから」

「それは悪かった。でも、ここまで髪型が変われば解らないこともある。もっと大人になれよ。さっきからなんだ、その言い草は! R美ちゃんにも失礼な態度をとったと思わないのか」


J子はしくしくと泣き始めた。街歩く人が面白そうな顔して、僕らの喧嘩を見ながら通り過ぎていく。たぶんJ子はR美と話していたことよりも、髪型が変わって僕が解らなかったことのほうに、より腹を立てたのだろう。だが、この頃は僕の気持ちはまだ充分にJ子にあった。ただ、J子同様、僕もまだ大人になり切れていなかったので、彼女の我儘や嫉妬心の強さに正面から向かい、同じ土俵の上で喧嘩をしていたのだ。僕がもっと大人だったら、もう少し優しく包み込むことができただろうに……と、だいぶ後になってから反省した。コンサートで花束を持ってきた他の女性のことは以前書いたが、この頃の喧嘩はすべて、J子の誤解から生じたものばかりだった。そういったことが積み重なり、僕はだんだんJ子の嫉妬心や気の強さに嫌気が差し、気持ちが醒めていったのである。


それから1年が過ぎた。延々と同じことを繰り返すJ子に、どうにも我慢ができなくなって、僕は別れを告げた。J子は「私じゃだめなの? 悪いところは全部直すから……」と言いながら、ポロリと涙を零し、僕に抱きついてきた。僕はJ子が急に愛おしくなって抱きしめた。だが、一時的な感情に流されては互いに幸せになれないと思い直し、すぐにJ子から体を離した。


それは、2年半前にJ子に別れを告げられた時と同じ私鉄の駅前での出来事だった。

真冬の厳寒の中、時刻は夜中の3時になろうとしていた。


(了)




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