詩小説1 心動 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

僕の心動が長い眠りから目覚めようとしていた頃、

初めて君の生の姿を見たような気がした

すらりとした長い脚にジーパンがよく似合っている

そんな君を見たのは、或る日の夜中だった

僕は校庭で作業をしていて、君はおにぎりを差し入れてくれた

その頃、僕は高校最後の文化祭の準備に忙しく動き回っていた


大人になる少し前の僕たちはみんな、

卒業までの残り時間を惜しむかのように本音をさらけ出していた

普段喋るのが苦手な僕でさえ、君にぎこちなく話し掛けていた

僕の心動がやっと体内に響き始めたのは、

おそるおそる君に交際を申し込んだ時だった

君は女神のような微笑みを僕に向けてくれた


やがて、僕たちは約束したわけでもないのに、

授業が終わると、一緒に下校するようになった

つかの間の幸せに、僕の心動は全身に響き亘った

でも、何のプランも持たなかった僕たちは、

それ以上の「デート」を体験することもなく、

ふたりの関係は自然に消滅していった


一年後、僕の心動は体外に出ていった

それはマイクを通して、外に響かせるスベを覚えたからだ

喋るのが苦手な僕がなぜかDJになっていた

そしてギターという自己表現のツールを手にした僕は、

たくさんの人たちの前で大声で歌い、

ギターの弦を掻き毟っていた


久し振りに君と偶然会った

そんな僕の変化に君は驚いていた

「今のあなたが高校時代のあなたなら、

どうなっていたかわからないな・・

だって、今のあなた、あの頃よりもずっと素敵で輝いているから…」

君はそう言い残すと、新しい彼と共に去っていった



(了)