南の島に降り積もる雪1 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

一昨年の大晦日のことだった。長期出張先で年内の仕事を終えた俺は、帰省するため車でフェリーに乗船した。2時間ほどで船は半島の先にある小さな港に着く。車で下船した俺は周りの景色を見て驚いた。半島はすっぽりと大雪に包まれていたのだ。これだけの大雪は何年振りだろう。どうやら路面は凍っているようだ。雪に慣れていない俺は、ノロノロ、こわごわと車を走らせる。今考えるとあまりにも無謀だが、タイヤの溝が擦り減っているうえに、チェーンも用意していなかったのだ。山道の道幅は狭く、対向車が来た時は、離合できる道幅のあるところまで、どちらかがバックしないといけない。ただでさえ危険な山道なのに、最悪の天候、条件が揃ってしまった。対向車が来たらどうしよう……。

不安は的中するものだ。対向車がカーブの先からやってきた。慌ててブレーキを踏んだが、擦り減ったタイヤはスリップして、まったくハンドルが効かない。あっという間に対向車と俺の車のバンパーは接触してしまった。フロントの右角あたりの軽い接触だったので、大事に至らずに済んだ。対向車もチェーンはしておらず、同じように急ブレーキを踏んでスリップしたようだ。運転者は若い女で、助手席には男が乗っていた。面倒なことを言いそうな相手でなくてよかった。相手の若い女も同じ気持ちだったに違いない。俺はそんなに強面ではないからだ。

軽い物損事故だし、特にどちらかが悪いということもなかったので、互いに自分の車は自分で直そうということになった。警察に連絡して事故届を出すとなれば色々と面倒だ。ただ、万一のことがあるといけないので、互いの電話番号と名前だけは教え合った。俺はバンパーを修理したあと、事故のことはすぐに忘れてしまった。

 

 

4ヶ月後、4月の初めに、再び俺は同じ道を走っていた。今回はつき合っている美沙子が助手席に乗っている。美沙子とは3年のつき合いになる。半島は寒々しいモノトーンの雪景色から、桃色や白色の入り交じった暖かな色合いに変化していた。満開の桜に覆われていたからだ。美沙子が桜を見たいと言うので、久しぶりにここまでドライブがてら、足を伸ばしてみたのである。俺たちの住んでいる街からは20kmくらい離れている。

走り疲れたので、道路沿いにあるドライブインに入った。土産物売り場を横目で見ながら、レストランに入る。中はごった返していた。近くに桜がたくさん植えられている公園があるせいだ。桜が満開になるこの季節には毎年たくさんの花見客が訪れる。運よくひとつだけ空いたテーブル席に座ることができた。俺はカレーを、美沙子はホットサンドセットを注文した。食べ物が来るまでの間、何気ない会話をしていた時だった。ふと、前方から自分に注がれている視線を感じた。一つ前の席の若い女からのものだった。女は男と一緒だった。男の方は背中しか見えないが、恋人同士のような雰囲気だ。

――どこかで会ったことがあるような……誰だったっけ?

(続く)

 

2015.4.13