この映画でポールが言いたいことは、
何だったのだろうか。
はっきりとは解らないが、
ジョナという曲の歌詞から何となく推察出来る。
JONAH
They say Jonah he was swallowed by a whale
But I say there's no truth to that tale
I know Jonah
He was swallowed by a song
ジョナはクジラに飲み込まれたと言われている
だけど、この話は真実じゃない
僕は知っている
ジョナは歌に飲み込まれたのさ
ジョナがクジラに飲み込まれる話は聖書からの引用である。
(ジョナという名前も聖書に出てくる)
ポールはこの話を引用したくて、
主人公の名前をジョナにしたのだろう。
再度、音楽で成功し、栄光のライトを浴びながら、
生きていくことをジョナは夢見ていた。
だが、現実は違っていた。
ずっと浮き上がることが出来ず、
マンネリズムの中で音楽をやることの虚しさを感じている。
「歌に飲み込まれる」とは、そういったことなのだろう。
No one gives their dreams away too lightly
They hold them tightly
Warm against cold
One more year of traveling around this circuit
Then you can work it into gold
夢を簡単にくれる人はいない
夢をしっかり握りしめるんだ
寒さの中で暖を取り
もう一年、旅を続ければ
輝きを手に入れることが出来る
だが、決して夢は諦めていない。
あと、一年頑張れば、もう一年頑張れば、
きっと芽が出る。
チャンスが巡ってくるはずだ。
そう信じて、無名のミュージシャンたちは、
今日もクラブ回りを続けている。
Here's to all the boys who came along
Carrying soft guitars in cardboard cases
All night long
Do you wonder where those boys have gone?
Do you wonder where those boys have gone?
ここいらを行き来していた少年たち
段ボールのケースにギターを入れ持ち歩いていた
夜中じゅうずっと
あの少年たちはどこへ行ってしまったんだ?
みんないなくなってしまった……
プロになりたい少年たちは、
若さゆえの情熱、夢を持っている。
だが、ほとんどの少年たちは、やがて夢破れ、
いつの間にか、一人、また一人と、
何処へともなく消えていく。
ジョナはまだ生き残っているだけマシなのかもしれない。
だが、他の少年たちと同じように音楽に情熱を持っていた時期と、
今は決して同じではない。
今はマリファナや酒や女に溺れながら、
歌に飲み込まれながら、自堕落な日々を送っている。
それは夢を諦め、去って行った少年たちよりも幸せなのだろうか?
ジョナは純粋さを残していたが故に、「最後の抵抗」を企てる。
レコード会社が勝手にアレンジしたマスターテープを破壊したのだ。
現実のポールは、ジョナとは逆で、
「サウンド・オブ・サイレンス」で、「妥協」したことによって、成功を手に入れた。
この映画は、ポールの自虐的想いから、作られたのだろうか?
それぞれの曲については、あまり触れないが、
全曲傑作揃いである。
「ワン・トリック・ポニー」と「ハーツ・アンド・ボーンズ」は、
買った当時は、あまりピンとこなかった。
それぞれに好きな曲はあったが、
アルバム全体としては、さほど良くないと思った。
つい最近まで、そう思っていた。
「ひとりごと」や「時の流れに」などのほうが、遥かに傑作だと。
だが、今回、レビューを書くにあたり、何度か聴き直すと、
一曲一曲、実に素晴らしい曲であることに気がついた。
メロディ、コード進行、詞の奥深さ、構造の緻密さ、演奏の素晴らしさ
すべてにおいて、ハイ・レベルなアルバムだ。
ひょっとすると、「ひとりごと」や「時の流れに」と同等、
いや、あるいは、それ以上かもしれない……。
追憶の夜で気分を高揚させ、
想いこがれて、神の恵みを、オー・マリオンのモデラートな抒情に打たれ、
神はいかにして映画を創りたもうたか、ノーバディのブルージーさにぐっときて、
ワントリックポニー、エース・イン・ザ・ホールの軽快さと美しさの対比を楽しみ、
ジョナ、ロング、ロング・ディの極上のバラードに涙腺が緩み、
一日の終わりをゆっくりと噛みしめる。
なんということだ、スキップする曲がない……!