レビュー15 時の流れに(前篇) Paul Simon | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない




1.時の流れに Still Crazy After All These Years

2.マイ・リトル・タウン My Little Town

3.きみの愛のために I Do It for Your Love

4.恋人と別れる50の方法 50 Ways to Leave Your Lover

5.ナイト・ゲーム Night Game

6.哀しみにさようなら Gone at Last

7.ある人の人生 Some Folks' Lives Roll Easy

8.楽しくやろう Have a Good Time

9.優しいあなた You're Kind

10.もの言わぬ目 Silent Eyes



1975年にリリースされたアルバム。

このアルバムは、グラミー賞最優秀アルバム賞と

男性ポップ・ボーカル最優秀賞の2部門で受賞した。

1986年にリリースされた「グレイスランド」でも最優秀アルバム賞を受賞したので、

明日に架ける橋と合わせて3回受賞したことになり、

フランク・シナトラと並び、世界最高の受賞回数となった。



賞を取ったことと個人の趣味とはまったく別だが、

このアルバムはポールの中でも音楽的にもっとも優れたアルバムであり、

私個人も、もっとも好きなアルバムだ。

サウンド的には、ジャズへの接近を強く感じさせる。

曲の構成がよりいっそう複雑になり、

オーケストレーションまで自ら手掛けるという、

ポールの飽くなき音楽への執念のようなものを感じさせるアルバムだ。

ポールのボーカリストとしての完成度も高い。


1.時の流れに Still Crazy After All These Years

アルバムタイトルにもなっているこの曲は、

このアルバム全体のイメージを集約している感がある。

一言でいえば、哀愁だろうか。

まるで映画の一シーンのような内容から始まる。



主人公は昔の恋人に偶然街で会う。

店に入ったふたりはビールを飲み、昔話に花が咲く。

あれから何年も経ったけど、相変わらず僕は君に夢中だ……

ロマンチックで切ない大人の世界だが、

そのあとは、どんどん暗く自虐的な人生が描かれていく。

主人公はどうしようもない現実に身を任せ、

ひとり取り残されたような焦りを感じている。



最後の3コーラス目の詞は、とてもポールらしい。

I fear I'll do some damage one fine day

But I would not be convicted by a jury of my peers

Still crazy after all these years

自分がしくじることを恐れている

でも、自分と同じ素人の陪審員から

起訴されるなんて、まっぴらごめんだ

何年経っても、まだ狂ったままだ……



君に狂っている自分から、

社会が狂っているとすり替えて皮肉ったのだろうか?

あるいは、狂っているのは相変わらず自分だと言ってるのだろうか?

ポールの真意はわからない。




2.マイ・リトル・タウン My Little Town

明日に架ける橋から5年ぶりにS&Gは結集し、

S&Gサウンドを復活させた。

すわっ!再結成か!と、期待させたが残念ながら、

共同作業はこの一曲だけだった。

この曲は、同時期にリリースされたアートのソロ・アルバム「愛への旅立ち」にも入れられた。

元々、この曲は、甘い歌ばかり歌うアートに、少し苦みのある歌を…と、

ポールがアートにプレゼントしたものらしいが、

中間部あたりで、ふたりの声を混ぜれば、

もっと良いものになると直感したアートは、ふたりで歌うべきだと提案、

ポールも同意したという経緯がある。

アートの直感は正しく、この曲は二人が歌うことで、

よりいっそう素晴らしい出来栄えとなった。

曲はかつてのS&Gのメロディの美しさがあり、

なおかつ、ソロアルバムで見せている複雑なメロディやコードも含んだ

深みのある曲となっている。

詞は、ポールらしい苦さ、暗さを持ったものだ。



My little townとは、工場だらけの町で、

お母さんが洗濯して干したシャツが薄汚い風(In the dirty breeze)の中で

なびいているようなところである。

もちろん、架空の町だろうが、

デトロイトあたりの工業都市を想起させる。

ちなみにポールの1st.アルバムの「パパ・ホーボー」にも、

デトロイトの様子が描かれている。



And after it rains

There's a rainbow

And all of the colors are black

It's not that the colors are'nt there

It's just imagination they lack

雨上がりの虹

色は真っ黒だ

でも、色がないわけじゃない

ただ、想像力が欠けていたんだ



虹が黒いのは、

工場だらけの排煙に塗れた町だから?

書いてある通り「ぼく」の想像力が欠けていたのか?

ポールの真意はわからない(2回目w)





3.きみの愛のために I Do It for Your Love

結婚届を出したのは雨の日、

そして、ふたりの質素な生活が描写される。

ポールの結婚生活は破綻してしまっただけに、

身につまされるような思いがあったのだろう。


(後篇へ続く)