告別式で甲本ヒロトは革ジャンを着ていつもの少し丸まった背中で、ひどい冗談だ、と言ったらしい。あたしにはそれがひどく雄弁な淋しい別れに聞こえた。ヒロトさんのあのちょっとさみしげな目が思い浮かぶ。きっと清志郎さんの目の優しさを知ってる人はあんな気持ちになる。清志郎さんは平和と愛を歌った。言葉にすると、とてもチープだけれど、そんなチープに聞こえる言葉に本気だった。本気で取り組んだから、チープになんか聞こえるわけないんだ。
清志郎さんは笑っている。清志郎さんがいなくなって淋しくて淋しくて仕方ない世界でも、あのやさしい目で、生きてるじゃない、と笑ってる。そのたび、愛し合ってるかい、と尋ねられてる気になる。愛し合ってるなんて言えない。職場だって仕事は多いし、わからない話をするひとたちがたくさんいる。肩がぶつかるだけで嫌になる日はたくさんあるし、なんとなく、死を思う日もある。
清志郎さんの愛し合ってるかい?は清志郎さんのいる場だけだって思ってた。ライブ会場、雑誌のインタビュー。雑誌のインタビュー読んでるそのときだけ。そのあとすぐ、きっと眉間にしわ寄せてる自分がいたよ。
でも、清志郎さんはほんとにこの世界に尋ねてたんだ、愛し合ってるかい?って。あのやさしい目で問い掛ける。あたしもやさしい気持ちになってうれしくて笑顔になって、いえーい、と言いたくなるんだ。それはきっとあたしだけじゃなくて、あのやさしい目で言われたら、みんなやさしい気持ちになるんだ。戦争なんて知らない代わりに暖かさを知るんだ。暖かさを知って、なんとなく身近なまったく知らない人にさえ、優しくしてしまいたくなるときがある。それのつながりを、あの質問は生み出していたように思うんだ。
清志郎さんは、本当に平和と愛を歌っていた。
きこえる のは RCサクセションじゃない。
「愛し合ってるかい?」