福祉と経営(小倉昌男) | 道玄坂で働くベンチャー課長だったひと

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Il n'est qu'un luxe veritable, et c'est celui des relations humaines.
Saint-Exupery(真の贅沢というものは、ただ一つしかない。それは人間関係の贅沢だ。
サン=テグジュペリ)
 


先日、ブログで紹介(「経営を考える 」)しました、

ヤマト運輸・小倉昌男氏の功績は、
宅急便制度だけでなく、
実は、もう一つあります。
 
それは、障害者労働の改善です。
 
ヤマトを退任し、70歳になったとき、
彼は、自身の持ち株を放出して、
ヤマト福祉財団を立ち上げました。
 
株価総額24億円相当。

彼が百貨店紙袋を携え、あまりにもさりげなく、
無造作に渡したため、担当者がその重要性に気づかず、
しばらくそのまま部屋に、放置してしまったほど。
 
彼自身、『福祉を変える経営 』を記していますが、
若干、語り口調がかたく、わかりにくい部分があります。
 
むしろ、分かりやすいのが、
建野友保『小倉昌男の福祉革命 』(小学館)で、
自分も本を読んで、久々に熱くなったほど、
よく描かれています。
 
小倉昌男が、福祉に乗り出したのも、
ごく単純な動機で「気の毒に思った」とのこと。
  
障害者をどうとらえるかは、社会でそれぞれ異なり、Challenged peopleという、
表現を用いる場合もありますが、
彼は率直に、気の毒と思ったのです。
 
そして、その哀れみが、作業所での
実状を認識するにつれ、
「怒り」への変わっていきます。
 
それは、作業所における障害者の
「月給」が、1万円であるということ。
 
日給ではなく、月給です。
 
なぜ、こうなるかといいますと、
いわゆる「経済的就労」ではなく、
「福祉的就労」に該当するため、
各都道府県で定められている
最低賃金が、適用されないのです。
 
また、布製品等のコストのかからない
ものを作っては、バザーで売ったりしますが、
それは、障害者がつくったものとして、
販売しているのであり、、
世間一般の商品のデザイン性などの
付加価値とは異なります。
 
彼は、そういう作業所を改善しようと、
参加費用全額、財団負担にて、
作業所運営者向けにセミナーを開催します。 
  
そこでは、こう指摘していきます。
  
「作業所には、経営力がない」
「お金儲けは、目的ではなく、必要な条件である」
「お金儲けは、汚いと考えることをやめる」
  
また、無認可である小規模な作業所を、
補助金が支給される法定の授産施設として、
認可されるよう、具体的なアドバイスもしています。
  
最終的には、パン屋「アンデルセン」で有名な
タカキベーカリーと協同して、
スワンベーカリー 」を立ち上げます。
 
スワンベーカリーでは、健常者と、
障害者が一緒になって働き、
障害者も、月給10万円なったといいます。
  
実際、スワンベーカリーで働ける人数も限られるので、
その点では影響力が少ないようにも思えます。
 
しかし、作業所運営者の意識革命をしたこと、
障害者に金銭的な面で働く喜びを与え、
自立するきっかけをつくったこと、
そして、何より、こういった成功例、
モデルをつくったことにより、希望を与えたことは、
大いに評価していいのではないでしょうか。
 
現役時代、経営者として成功しても、
引退後、セカンドライフでつまづく人は、
多いと思います。
 
その中にあって、小倉昌男氏は、
経営という自身の得意分野を活かし、
身銭をきって、社会貢献していく姿は、
理想的だと感じます。
 
世間には、いろんな経営者がいますが、
やっぱり自分は、小倉昌男氏が、
一番フィットします。
 
機会があれば、ぜひ、
この知られざる名著をご一読ください。
 
建野友保『小倉昌男の福祉革命』 


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