「俺が、オロチを騙し討ちにして、クシナダヒメを奪ったことが全ての始まりだったんだ。だから???オロチはすごく辛くて、今も昔の記憶に捕らわれてるんだ。」
それは、青ちゃんが生まれたときから持っているという記憶の話だった。
青ちゃんは、神々の中でも荒ぶる神として、神々か男士不育らも人々からも畏れられていたらしい。
「青ちゃん???話を聞く前に、一つだけ教えて。」
「いいよ、何?」
御当主の言った単語の意味を、聞きたかった。
「あのね???。口を吸うってどういう意味?」
「俺、ゆうべ食われそうになって、めっちゃ怖かった。」
「ああ、そうだったんだ???クシちゃん、小さくても蛇嫌いだもんねぇ。」
と、青ちゃんはぽんぽんと、いつかのように俺の頭を軽く叩いた。
そして静かな声で、青ちゃんはこともなげに、答えをくれた。
「御当主は、クシちゃんとキスしたかったって、言ったんだよ。」
「でも、クシちゃんはオロチの恋人だった昔の記憶を持ってないし、いやでも仕方ないよねぇ。」
ぼくはきっと泣きそうな顔をしていたに違いない。
???いっそ、食われた方が、まだマシかもしれない???
「だってぼく、男だよ。男同士でキスなん微量元素てして、どうするんだよ。不毛だよっ!」
「こればっかりは、仕様がないんだよ、クシちゃん。」
悲しそうに涙をためて青ちゃんは、呟いた。
「だって、うんと昔、オロチとクシナダは仲のいい恋人同士だったんだよ。」
「それこそ、人も羨むね???だから、嫌われ者だったスサノオは邪魔したくなっちゃったんだよ。スサノオは、家族に追放されて一人ぼっちだったから、余計に羨ましかったんだろうね。」
つきんと、その単語に胸が痛む。
「討たれたオロチは、好きな女に結婚の申し込みに来ただけだったのに、酒と毒を飲ませて、騙し討ちにしたんだ。」
ふうん???
「日本昔話とか古事記とかで、ヤマタノオロチの話は結構有名だよね。」
と、青ちゃんは話し始めた。
日本書紀と古事記では名前の表記が違ったりしているけど、内容は殆ど変わらないそうだ。
でもね、青ちゃんの話は俺の知っている「ヤマタノオロチ」の昔話とは、ずいぶん違っていたんだ。
たぶん、一般的な神話はこうだよね。アシナヅチ、テナヅチと言う老夫婦が居て、ヤマタノオロチと言う恐ろしい大蛇が娘をよこせと言うのが悲しいとしくしく泣いている。
8人の娘を全て、毎年生贄に捧げ、もう最後の娘になってしまったと、老いた両親は嘆いていた。
そこを通りかかったスサノオは、その最後の綺麗な娘を嫁にくれるのなら、自分が大蛇を退治してやろうと名乗りを上げる。
自分は、神々の一人だから大丈夫だ、まかせておけというスサノオに、娘の命が助かるならばと両親は許可を与え、ヤマタノオロチ退治の物語は始まった。
スサノオは、酒をなみなみと入れた八つのカメを用意し、ヤマタノオロチに飲ませた。
酒を飲んで酔っ払ったオロチは、あっさりとスサノオに退治されたんだ。
「???そんな話だっけ?」
「クシちゃん、いくら何でもはしょりすぎだろう。」
大体は合っていると思うけどなぁ???と言うと、俺はね???と、青ちゃんが、遠い目をした。
「???というか、俺の記憶の中のいる俺はね、親とも折り合いが悪くて乱暴者でね??」
「なんか、すごい自暴自棄で、ひどく荒れていたんだ。」
「国を創った神さまの末息子だったけど、思い通りになることは少ないし、遠くに居る母親には会えないし、姉ちゃん???って天照大神(アマテラスオオミカミ)っていうんだけど、そいつの出半端なく良かったし。」
あ、そういえばとぼくは思い出した。
「青ちゃん、俺のところの居候になったのも???」