内心であせりつつもどうにか平静を装う。
「……ちょっと図書館に寄っていく」
「試験が終わったばかりなのに?」
「借りていた本を返しにいくだけだ」
「ふぅん」
訝しんでいるかのような相槌。
気のせいか何か疑われているように感じる。言ったことに嘘はない。ただ、言えないことがある。深く追及されたらどうしようかとびくついていると、彼はふっと笑みを浮かべた。
「まあ、せいぜい楽しんでこいよ」
それだけ言うと、軽く手を振りながら軽やかに大通りへ向かっていった。
せいぜい、楽しんで——?
悠人は去りゆく彼の後ろ姿を見つめながら眉をひそめる。図書館に本を返しに行くと言っただけなのにどうして。まさか——いや、それなら彼の性格からして黙っているとは思えない。特に深い意味はなく挨拶のようなものだろう、きっと。そう結論づけて思考を閉じた。
「悪かったな、延長しておくと言っておきながら」
「ううん、私の方こそ忘れていてごめんなさい」
美咲と総合図書館前で待ち合わせて本を返却すると、互いに謝罪する。
今日は返却しただけで借りてはいない。前回、小笠原旅行の前に借りたきりひと月以上も延滞となっていたのだ。フェリー事故で美咲も悠人も余裕がなく最近まですっかり忘れていた。延滞した場合は、超過した日数分の期間だけ新たに借りられないという罰則がある。美咲には申し訳ないがあとひと月ほど待ってもらうしかない。
自動ドアをくぐって外に出ると、正面に広がる空は残照でオレンジ色に染められていた。それでも九月らしからぬ昼間の熱気はまだ十分に残っている。そういえば、昼食のときから何も飲み物を口にしておらず喉がカラカラだ。喉どころか体中が干からびているように感じる。
「ジュースでも飲まないか?」
目についた自販機を指さして尋ねると、美咲はニコッとして頷いた。
「何にする?」
「んー……じゃあ、オレンジジュース」
待ってろと言い置いて、自販機でオレンジジュースとコーラを買って戻ると、総合図書館前の階段の隅に二人並んで座った。試験最終日の夕方だからとしている。朱く染まった雲を眺めながら、悠人はコーラのプルタブを開けて口をつけた。美咲も隣でちびちびとオレンジジュースを飲み始めている。
ときどき、互いの腕が無意識にぶつかる。