寝ても、覚めても。


授業中でも、練習中でも。


メシ食ってても、風呂に入ってても。




「頭ン中が、ソイツで一杯だってどういう事なんだろうなぁ…」


ふとそう一人ごちた越野に、仙道は一言言い放った。


「そりゃあ、『惚れて』るんだろ?フツーに」


「やっぱ、そうか」


慌てると思いきや、あっさりと納得した越野に仙道は小さく笑った。


意外に土壇場の場面では、仙道以上に肝が据わっているのが越野だ。


こりゃあ、相手は大変だ。


猪突猛進。

これと決めたらまっしぐら、だからなぁ…。


そう考えながら、仙道はドラムバッグに無造作にTシャツを突っ込む。


「…で、そんなに熱烈に恋した相手は誰?オレも知ってる人?」


当然、気にならなくはない。


親友として、かれこれ2年。


ワイ談もフツーに交わし、かと言って色恋沙汰には全く興味を示していなかった越野のこの発言だ。


好奇心がない、といえば、それはそれで嘘になるだろう。


「うん、めちゃくちゃ知ってるヤツだぜ」


迷いが吹っ切れたような、満面の笑み。


誰だか当ててみろ、といわんばかりに、仙道を見つめている。


「…え~っと、サヤカちゃん?」


同じクラスで一番越野と仲がいい少女の名前を挙げてみる。


「ハズレ。アイツとはそ~ゆ~仲じゃなくて、悪友ってカンジ?」



「じゃあ、リホちゃん?」


「またハズレ。アイツは天敵に近いな…うん」


女バスで一番仲のいい少女の名前も、違うらしい。



「そしたら…カンナちゃん?」


「またまた、ハズレ。まぁ、あのダイナマイトバディにはいつも目が釘付けだけどな…オレの下半身も」

ゲラゲラと笑いながら、越野はそう答える。


越野が『ヤるなら、あんなのがいいよな』と言っていた少女の名前も、違っていた。



次々と思いつく少女の名前を挙げてみる。

だが、どれ一人として正解に当たらない。


「………一体、誰?」


最後の一人も、違うと云われた。

仙道はさすがに頭を抱えた。


仙道のその様子にしてやったり、な表情の越野が、仙道のその言葉にふいに真剣な眼差しで仙道を見つめた。


「…知りたい?」


「あぁ、とっても」


お手上げ、というように両手を上げる仙道に、ニヤッと一つ笑うと、越野は仙道のシャツの胸倉を掴むと自分の方へと引き寄せた。


そして、その唇が攫うように仙道の唇を掠めていった。


「……こ、越野………?」


「正解は、コチラ。陵南高校のエースガード、越野宏明クンの熱烈な恋のお相手は、陵南高校期待のエース、仙道彰くんでした~」


おどけるように越野はそう言うと、ニッコリ笑ってまた顔を近づける。


熱い吐息が触れそうなくらい間近な距離で、これ以上もない情熱的な表情を見せる。


「オマエも知っての通り、オレはしつこいからな。覚悟しろよ?」


親友だと思っていたオトコからの、突然の告白に、仙道はただ呆然とその怖いくらいに綺麗な笑顔を見つめるしかなかった。








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4月29日。


今日の誕生花は、バラ。


花言葉は、『熱烈な恋』


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