知ってしまった感情は、もうないことにはできない。





見つめる先には、見知った長身。


ただその隣には、可憐な少女。





『紹介するよ、神崎さん』

照れたように見せるその表情は、今まで自分は見たことがなくて。

眩しくて、羨ましくて、親友として、祝福した。

チクリ、と刺した胸の痛みが何かはその時は気づかなかった。



インハイ予選の後、全国大会への切符を手に入れる事が出来ず、集合だからと一人体育館の裏に行った彼を迎えに行って目撃した。


優しくいたわるように抱きしめる彼女。

甘んじて受け入れる、見知った長身。


耳元でそっと何かを囁き、その唇で彼の唇を攫った少女。




ズキン、と突き刺さった胸への痛みを、理解出来た時には、既に何もかもが遅くて。






気づかない振りをしていた。



この小さな恋は、誰にも気づかれてはいけなかったから。







だから、この先も。



気づいたけれど、見なかった事にして。


蓋をして、誰にも判らないように。


恋した相手すら気づかない、小さな、小さな感情なのだから。




でも…誰もいない時なら。


少しづつ遠くなる長身が視界の中で少しずつ滲んでぼやけていく。


逆光で見えないが、きっと甘やかな表情で、あの少し低めの声で優しく言葉を交わしているのだろう。


それが、自分なら。


それなら、この小さな恋も報われるのに。




「…好きだ…仙道…」



小さな呟きは、夕焼けに霞んで。

…そしてその長身と共に消えた。





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


4月28日。


今日の誕生花は、サファリプテラム。


花言葉は、『小さな恋』


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□