「まだまだ藤真さんには叶いませんよ」


ニッコリ。
厭味のない笑顔で言われると、納得してしまう自分もどうかと思うのだが。
藤真は持っていきようがないその感情を、マックシェイクのストローを噛み締めることでなんとか静めた。


元々のポジションはフォワードのオールラウンドプレーヤー。
今や神奈川で彼の名前を知らない人はいない。
天才的なバスケセンスに加え、そのルックスたるや並みの芸能人でも叶わない。


そんなイヤミな肩書きを引っさげているというのに。
この男はどこか憎めない。
それは人好きのする、そのタレ目にあるのか。
はたまたコートを降りれば、『ただの人』以下になるその性分か。


バスケ以外でも親交を深めあうことになったのは、この男のコート以外の真剣な瞳にノックアウトされたからだという事実は、他の人間には口が裂けてもいえそうもない藤真だったりするわけだが。


「でも、ポイントガードじゃ物足りないだろ?オマエ」
「そんなコト、ないですよ。まだまだ藤真さんの仕掛ける奇襲を見抜けませんからね。オレ」

ポイントガードとして、6年修行を積んできた自分のそれを見抜かれたりしたら、流石にヘコむぞ。
それも元々ポイントガードじゃない奴なんかに。
藤真のその本音は、シェイクと共に飲み込まれる。


「やっぱ、藤真さんには叶わないなぁ…」
今日のプレイを思い出しているのか、遠い目をしながら仙道は小さくそう呟いた。


その今日のプレイも目を見張るものがあった。
ポイントガードとしてもやっていけるんじゃないかという、その視野の広さ。
ゲームの主導権こそは藤真が握っていたが、危うくも覆されそうになったそれに何度奥歯を噛み締めたことか。
本格的にポイントガードを極めれば、きっと現在ナンバーワンの地位にいる牧すらその立場は危うい。




「またまた、ご謙遜を」
脅威と感慨深さが混じった複雑な心境で、藤真はそう告げる他に言葉がみつからなかった。



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4月23日。

今日の誕生花は、ロベリア。

花言葉は、『謙遜』


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