「あぢぃッ!!」


越野は休憩の合図があるが早いか、体育館の外の水飲み場へと猛ダッシュをぶちかました。


派手にカランの下に頭を突っ込むと、水道の蛇口を勢いよくひねる。


灼熱の真夏。


まだグラウンドでやっているサッカー部や野球部に比べれば、屋根がある分恵まれているのかも知れないが、それは直射日光を浴びないだけの話であり、実は蒸し風呂さながらの様相だとは彼らも思っていないに違いない。


日陰に設置されている水道のせいか、幾分か冷たい飛沫が越野をクールダウンさせる。


「ふぅ~っ、生き返るぅぅ~」


仕上げにバシャバシャと顔を洗い、そのまま水道の蛇口を止めると、越野はブルブル、と犬が水気を飛ばすように軽く頭を振った。


生暖かい風が頬を掠めていくが、水気のある今なら少しは涼しくも感じる。


あと10分もすれば、またあの『蒸し風呂』へと戻らなければならないが、今は倖せ。


ゴシゴシと乱暴に髪を拭きながら、ふと空を見上げる。


気持ちいいぐらいに、晴れ渡っている。



今頃…湘北の試合は始まっているのだろう。


ふと、越野はそう考える。


最高のメンバーを集めた、今年のスタメンでもそこへとたどり着くことは出来なかった。


最後の試合の、魚住の涙を思い出す。


あの悔しさを思えば、このくらいの暑さに負けてたまるものか。




来年こそは、自分達がインハイに行くのだ。


そして、あの真紅の優勝旗を掻っ攫って来てやる。



最強のメンバーで。


最高の舞台で。




越野は一つ不敵にニヤリ、と笑うと、また蒸し風呂へと脚を向けた。






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4月21日。


今日の誕生花は、ミヤコワスレ。


花言葉は、『しばしの憩い』


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