藤真はふとため息を洩らして、窓の外を見やった。


真っ青な青空に、ぽっかりと浮かぶ真昼の月は満ち満ちている。


血が騒ぎ出す、というのはこういうことをいうのかもしれない。


一族の定めだ、と言われれば、そうなのかもしれないが、こと若い人間が多いこの学校にいるだけで、すでにクラクラするくらいの眩暈に襲われる。


舌で口の中を探る。


チャームポイントだと人は云う、八重歯がいつもよりも更に鋭くなっているのは気のせいではないだろう。


さてと、どうしたものだろう。


早いところ一度学校を抜け出してどうにかしなければ、放課後の部活の時間に間に合わない。


ただ、今日はそれをどうしても許されない状況にある。


学内一斉学力テスト。


普通の試験であれば、1日に2時間、もしくは3時間で終了し、部活もなく家路へと足を向けられるのだが、このテストだけはそうもいかない。


1日、6時間。


びっしりと試験が目白押しなのだ。


その上、この試験は1日で終わるので、その後にはしっかりと部活が待っている。


このテストを受けなければ、進学先の選択の余地がなくなる、というぐらい重要な試験なだけに、途中で抜け出すなど言語道断なのだ。


何とか、昼休みまでは切り抜けた。


そして、最後の6時間目の授業の今、うっかりと外を見やったばっかりに、その考えはピークに達している。


夜の光とは違う、その弱々しい姿にさえ反応してしまう自分が疎ましい。


とりあえず、放課後…


何とか理由をつけて外に抜け出して、どうにかしなくては…。


藤真はそう考え、目を閉じると、ころん、と鉛筆を転がした。





…そして、放課後。


何とか衝動を押さえつけつつ、掃除当番を笑顔でサボり、生徒で溢れる校舎を抜け出すと、部室棟へと藤真は向かっていた。


とりあえずまずは部室に行って、花形に伝言を残さなければ。


部室の前で鍵を取り出して、鍵穴にそれを差し込もうとした瞬間、中から人の気配がした。


…マジ、もう誰かいるのかよ?


藤真はため息をつくと、仕方なく扉に手を掛け、そのドアをガラリ、と開けた。


「よぅ、藤真」


「うっす、早かったな…花形」


中には既に花形が居て、練習着に着替えている最中だった。


プン、と漂う、芳醇な薫り。


誰とも交わった事のない、純潔な者だけが醸し出す、藤真にしてみればまさに魔性の薫り。


餓えている藤真には、それはもう拷問のようなもので。


「…花形…」


微かに残った理性が、止めろ、という声すら、もう聞こえない。





「どうした、藤真…?」


いつもと違う気配に花形が振り向いた瞬間に見たものは、今にも倒れそうな藤真の顔と、それとは対照的に鋭く尖った八重歯で…


次の瞬間、藤真に抱きつかれ、首筋にチクリ、と小さな痛みが走った後、花形の意識はフッと途切れた…






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4月14日。


今日の誕生花は、フリージア。


花言葉は、『純潔』


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