ぎぃぃ、と重い音が響き、暗闇の世界に明るい光が差し込まれる。


越野は虚ろな瞳で、けだるげにその光の方向から視線を逸らした。


光の先に居る人物は、いつもただ一人。


かれこれ、もう何ヶ月たつというのだろうか…。


「…まだ、開放されたいと思わないの?」


くい、と顎に指を掛け、自分の方に向けながら、そういう彼の表情は逆光で殆ど読み取れない。


ただ、瞳だけが何かを求め、餓えた様にギラついているだけだ。


ふい、と瞳を逸らした越野の髪をギュッと掴み、無理矢理自分の方に向けさせる。


噛み付くような、口づけ。


その舌を噛み切ろうなんて考えは、随分昔に捨ててしまった。


何度かそうしてみたが、決まって嬉しそうに笑うだけだからだ。


どうやったら、抜け出せるのだろう。

この、狂気の世界から。



「…ねぇ、越野」


唇を離しながら、彼はそう呟く。


「一言云ったら、開放されるんだよ?」




…判っている。


開放されるのは、この暗闇からだけの話。


その先には、もっと恐ろしい、二度と抜け出すことなど出来ない監獄が待っているに違いない。





「ねぇ、越野」


愛おしそうに、自分の名を呼ぶ。


少し、憂いを含んだ声で。


「…たった、一言だけだよ?」


にこやかに笑う。


狂気の宿った瞳で、あの頃と同じ声で。






「オレを愛します、って云えば、それだけで開放してあげるよ、ここから」


なおも優しくそう告げる仙道から、越野は瞳を閉じることでその世界を遮断した。




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4月13日。

今日の誕生花は、アネモネ。

花言葉は『あなたを愛します』

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