人生、16年。
まだまだそう長く生きている訳でもないが、今迄の人生で緊張した事など皆目なかった信長だったが、今、まさにとんでもなく緊張したその場面に遭遇していた。
ちなみに、昨夜からドキドキとした胸の高鳴りは収まることもなく、横になったら最後、3秒後には華麗な高いびきが披露される、と誰もが感心する自分が、一睡も出来なかったという事実もある。
そう、今日信長は、神の家に招待されていた。
お誂え向きに、明日は珍しく部活は完全に休みだ。
更に神の両親は、山形で法事があるとかで家には神と自分の二人きり。
一応、高校生と呼ばれる自分である。
スポーツで性欲が昇華されるなんて、きっとどっかの朴念仁が言ったに違いない。
付き合っている相手と一晩、一つの屋根の下…といえば、そういう気分になるに違いないし、きっとそうしてしまうことも予想できる。
…いや、実はそれ以前の問題であったりするわけだが。
「どうしたの、ノブ?」
「…えっ、あっ、神さん…」
タオルで髪をゴシゴシと拭きながら現れた神に、心底ドキリ、とする。
一つ年上の、この美麗な彼は、信長の恋人である。
「あ、ポカリなくなったね。何か別の飲む?」
緊張のあまり、ガブ飲みしてしまったペットボトルは既に空で、神は優しく笑うと冷蔵庫へと向かう。
タンクトップにショートパンツ。
練習中にもいくらでも見ている姿なだけに、見慣れている筈なのに…。
それなのにこんなに心臓が高鳴るのは、緊張のせいなのか、湯上りのせいなのか。
「はい、ノブ。これ好きだったよね」
手渡されたのは、セブンアップ。
リングプルを上げ、一口飲むと炭酸特有のピリッとした感触が舌に広がる。
寒いくらいにクーラーは効いているはずなのに。
躯はどんどん、熱を帯びていく。
それは隣に寄り添うように座っている神の触れている肌から広がっているようで。
セブンアップの缶を握り締め、ふと瞳を閉じた信長の耳に、同じようにプシュッとリングプルを上げる音がして、つとその音の方を見やると、神は缶ビールを手にゴクゴクと喉を鳴らして煽っていた。
長い指と、白い喉が扇情的で。
信長は思わずじっと神を凝視した。
「ノブも飲む?」
視線に気付いたのか、神が缶から唇を離してそう尋ねる。
首を振ろうとした信長を見つめ、神は缶ビールを一口口にすると、その白く長い指で信長の顎を捕らえ、そのまま口唇を重ねた。
缶に触れていたせいかほんのり冷たい、それでいて温かい、初めて触れた唇。
触れられた顎と、重なった唇から伝わる熱は、もう、とんでもなく熱くて。
あまりの息苦しさに、酸素を求めるように唇を開いた信長の中に、苦い味と、今迄よりももっと熱い舌が侵入してくる。
ごくり。
苦い味のはずなのに、何故なのかほんのりと甘い気がした。
信長がそれを飲み込むと、神の唇が緩やかに離れる。
神の、何時の間にか閉じられていた瞳がゆっくりと開かれ、そこは濡れた様に艶を放っていた。
ほんのりと目の淵が朱く染まっているのは、酒のせいなのか、それとも………?
顎を捉えていた指に、自分の手を重ねると、信長はその自分と同じように熱を帯びた熱い躯を引き寄せた。
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4月12日。
今日の誕生花は、ブプレウルム。
花言葉は、『初めてのキス』
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