何をやっても、許してくれる。


何があっても、信じてくれる…というのは、一体どういう感情からだろうか?


藤真はぼんやりと、目の前の優しい男を見つめた。




ライバルであり、同士であり、そして恋人でもあるこの男。




どんな我儘をぶつけても、笑って応えてくれる。


淋しいといえば、夜中でも自分の元へ駆けつけてくれる。


もしかして、自分が想うほどには、この男は自分の事を愛していないのかもしれない。


そう思う自分は、可笑しくないのではないか、と最近思いはじめた。




…そして。


今日、初めて浮気をした。


この男が夜に泊まりに来ることは、既に前日から決まっていた事実。


それを判っていて、わざと。

相手は、一つ下のこの男も良く知っている他校生。


いつもと勝手が違う情事に、躯は反応しながらも、これを知ってもこの男は動じないのだろうな、と冷静に考えている自分がいた。




チクリ、と何かが刺さる音がしたような気がした。


気がつけば、目の前の優しい恋人は、いつもと違った目つきで自分を見ている。


視線の先を辿れば、自分の胸元。


どぎつくつけられた情事の痕跡が恐らく残っている場所。


「…どうした、牧?」


何も知らない振りをして、いつも通りを装って藤真はそう尋ねる。


ふと、視線が合う。


いつもの優しいまなざしとは違う、棘々しい視線に射抜かれる。




…怖い。


ビクッと身体が震える。


こんな表情のこの男なんて、今まで見たこともない。


猛々しい野生の雄のような顔で自分に近づいてきた牧に、藤真は愕然とした表情でそれを見つめる他に術がなかった。


牧は、その顔のまま、不気味なくらいにこやかに笑うと、藤真の両肩に手を置くと耳元に口を近づけた。


「今まで、大概の事は目をつぶってきていたがな…」


いつもよりも更に低い声でそう囁き、そのままベロリ、と耳を舐められる。


そして、肩にあった片方の手がボタンシャツの前を引き裂いた。


飛び散るボタン、そして肌に残る他の男との情事の痕跡。




「俺が何をしても、怒らないと思っていたのか?藤真」


強い力で床に押し付けられ、付けられた痕跡を辿るように強く指で押される。


「…ま…牧ッ…」


「…俺はそれほど大人じゃないんだ。ある程度の事までは許せても、それ以上は…な」


激しい後悔が藤真を襲う。


自分を愛していてくれるからこそ、許してくれていたという事に。


広い心で、受け入れてくれていたという事実に。



それなのに…。


信じられなかった、狭い心の自分。


わざと試すようにあんな事をして、牧を傷つけた。


これは、それを感じる事すら出来なかった自分への罰だ。




いつもとは全く違い、荒々しく自分を扱う牧を、涙に濡れた瞳でぼんやりと藤真は見つめるしかなかった。





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4月6日。


今日の誕生花は、ベニバナ。


花言葉は、『包容力』



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