旅と乗り物2
なぜ、さっきの特急は突然ここに止まったのだろうか。
どうして時刻表に載っていないのに止まったのか??!
そもそも、一目見ればターミナル駅でないことはすぐわかったのに、なぜ私は降りてしまったのか?
いろんなことに腹が立ってきたが、おこっても仕方ない。
夕方まで待つしかないのだから。
しかし、こんな小さなホームに半日座っているわけにはいかない。
どんな町か探検だ。
駅を出てウロウロしてみる。 何もない。 ショックを引きずり、呆然。
と、やさしそうなおばさんが近づいてきて、私に声をかける。
「どうしたの?」
事情を話すと、なんとなんと…
「よかったらウチでお茶でも飲みませんか?」 (英語)
信じられない。 夢みたいだ。 日頃の行いがよかったのだろうか。
歩いていったか、車だったか、忘れてしまった。
旅先で声をかけられて、ひょいひょい着いて行っては危険なことも、もちろん多い。
しかし、こんな小さな田舎町でこんな人のよさそうなおばさん(おばあさんに近かった)が誘拐などするはずがない。
いや、正直に言えば、あまりにも途方にくれていたので、そんなことは考えもしなかった。
今、考えてみると、何もないごく普通の田舎町。
観光名所があるわけでもなく、この駅で降りる観光客などいないはずだ。
そんなところでウロウロしている日本人の女の子(当時)。
しかも大きなザックを背負っている。
珍しさに声をかけてくれたに違いない。
これが、観光客の多い町なら、あり得なかった話だ。
おばさん (ご婦人と呼ぶべきか) とお喋りしながら数分。 ご自宅に着いた。
庭には緑が溢れていた。 今は日本でも流行の元祖(?)イングリッシュガーデン。
ふと、庭の隅を見ると、木造の小屋から頭を出しているのは… なんと白馬だ。
絵はがきでも見ているようだ。 本当に夢じゃないだろうか。
馬に挨拶をしてから招かれて家に入ると、所狭しと飾り物が並べてあった。
特に豪邸ではないが、いかにも英国風のれんが造りの家で、暖炉もある。
「お茶でも…」 と言われてついてきたが、ご婦人が用意してくれたのはまさしく high tea 。
銀のトレイに銀の食器。
毎日ユースやB&Bを泊まり歩いていた身には贅沢すぎるようなひとときであった。
あまりに出来すぎた話で、信じてもらえないかもしれないが、これは本当にあったこと。
一瞬の迷いの後、列車を降りてしまうことが、こんな体験につながるとは誰も予想しない。
金無し気ままヨーロッパ巡りは楽しかったが、これが思い出の筆頭。