家庭でできる性教育の始め方 〜“今”からできる、小さな一歩〜

性教育と聞くと、「どこから始めればいいのかわからない」「難しそう…」と思う保護者の方も多いかもしれません。
でも、性教育は、特別な教材や時間を設けなくても、日々の生活の中で自然に取り入れることができるのです。

今回は、特別支援学校での現場経験を踏まえて、知的障害のあるお子さんと家庭で取り組める「性教育の始め方」について、わかりやすくお話ししていきます。

1. 「特別なこと」と思わないことが第一歩

性教育を「特別な学び」と構えると、どうしても言葉が重くなり、親子ともに緊張してしまいます。
でも、性教育は本来、「自分の体を知る」「生活のマナーを身につける」「相手との心地よい距離感を知る」といった、生きていくための基本の学びです。

ですから、まずは「今日から」「今から」できる、小さな行動から始めてみましょう。

2. 体の名称を正しく伝える

意外と大切なのが、体の名称を正しく教えることです。

  • 「おしり」「ちんちん」「おまた」などの幼児語だけではなく、
  • 「陰部」「陰茎(いんけい)」「陰唇(いんしん)」「乳房(にゅうぼう)」など、正しい言葉も少しずつ使う

特に知的障害のある子どもたちは、言葉をそのまま覚える傾向が強いため、正しい言葉で教えることで、医療や相談の場で必要な表現ができるようになります。

また、「ここは大事な場所なんだよ」「他の人に見せたり、触らせてはいけないんだよ」という説明も一緒にしていくことで、自己理解や自己防衛の力にもつながります。

3. プライベートゾーンを教える

性教育の基本の一つに、「プライベートゾーン」の考え方があります。

これは、「人に見せたり、触らせてはいけない大切な場所」のことで、一般的には以下の部位を指します。

  • 胸(乳房)
  • おしり
  • 性器(陰部)

これらの部位について、「ここはプライベートゾーンで、誰にも勝手に触らせてはいけないよ」と繰り返し伝えることで、性被害の予防にもつながります。

また、他人のプライベートゾーンに触れてはいけない、ということもセットで教えましょう。

4. お風呂・着替えのマナーを整える

日常生活の中で性教育に直結するのが、「お風呂」や「着替え」の場面です。
この中に、性教育において大切なポイントがたくさん詰まっています。

  • 服を脱ぐのは誰もいない場所で
  • ドアを閉めてお風呂に入る
  • 家族でも異性には「ちょっと見ないでね」と言える練習

こうしたやり取りの中で、「プライバシーを守る」という感覚を育てていきましょう。

5. 「いや」と言える練習をする

知的障害のある子どもたちは、「言われたことに従う」経験が多く、「イヤだ」と伝える練習をする機会が少ないことがあります。
だからこそ、家庭の中で、安心して「ノー」が言える環境づくりが大切です。

たとえば…

  • 「これ着る?」「イヤ」→「そっか、じゃあ違うのにしようか」
  • 「今、ギューってしていい?」「イヤ」→「OK、今はやめておくね」

こうした小さなやり取りの中で、自分の気持ちを言葉にすることの安心感を育てていきます。

6. 身近な絵本や教材を活用する

性教育の導入には、視覚的なサポートがとても効果的です。
以下のような絵本や教材は、言葉だけでは伝わりにくい部分を助けてくれます。

  • 『あかちゃんはどこからくるの?』(福音館書店)
  • 『プライベートゾーンってなあに?』(かもがわ出版)
  • 写真やイラストを使ったカード教材やポスター

特別支援学校でも、これらの絵本を使って授業を行うことがあります。
「見て」「聞いて」「体験して」学べるようなサポートが効果的です。

7. 親が恥ずかしがらないことも大切

「ちんちん」「おしり」などの言葉に、親が戸惑ったり、笑ってしまったりすると、子どもも「これは言ってはいけないことなのかな?」と感じてしまうことがあります。

ですので、できるだけ自然に、淡々とした態度で受け止めましょう。
「これは大事な話なんだ」と感じてもらうことで、子どもたちは安心して質問したり、自分の気持ちを表現したりできるようになります。

8. 知的障害のある子どもに合った伝え方を

子どもの発達段階に応じて、言葉の選び方や説明の仕方も工夫が必要です。

たとえば、

  • 抽象的な表現ではなく、具体的な例を使う
  • 短い文で、繰り返し伝える
  • 「いい」「わるい」ではなく、「こうすると安全」「こうすると危ない」という視点で

支援学校でも、1回で伝わることは少なく、繰り返し、日常の中で伝えていくことを大切にしています。

9. 「家庭と学校が一緒に取り組む」ことの意味

性教育は、家庭と学校の両方で取り組んでいくことで、より深く、子どもに根付いていきます。
「おうちでこんな話をしました」「学校でこんなことを教えました」
そんな情報を、連絡帳や面談などを通して共有しあうことが、とても大切です。

家庭と学校が、同じ方向を向いている。
その安心感が、子どもにとっては何よりの支えになります。

10. 最後に:性教育は、愛情の学びです

性教育は、「自分を知り、大切にする」学び。
そして、「他人と関わるときに、相手も大切にできるようになる」学びです。

誰かを好きになる気持ちも、触れたいと思う気持ちも、本当はとても自然な感情。
だからこそ、それを安全に、正しく、安心して表現できるように、子どもたちに伝えていきたいですね。


次回は、「思春期の体と心の変化にどう向き合うか」をテーマにお届けします。
月経、性衝動、恋愛感情など、思春期特有の悩みに、支援学校ではどう対応しているのか、お伝えします。