知的障害とは何か?〜定義と理解の基本〜

以前に書いた知的障害の度合いについて、もっと詳しく知りたいというお声がけをいただきました。内容が重複する部分もあるかと思いますが、お役に立てれば幸いです。


「知的障害」と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。
「勉強が苦手な子」「言葉が遅い人」「ずっと支援が必要な存在」など、漠然とした印象が先に来る方も多いかもしれません。
しかし、実際には「知的障害」と一口に言っても、その特性や必要な支援、そして本人の力の発揮され方には大きな個人差があります。

このシリーズでは、知的障害の「度合いの違い」を中心に、支援の在り方や本人の可能性に焦点をあてながら、お伝えしていきます。
第1回は、まずその「知的障害」とは何か、という基本的な定義や誤解されやすい点について、解説します。



知的障害の定義とは?

医学的な診断基準であるDSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-11(WHO)が用いる「知的発達症」という表現では、以下の3つの条件が満たされる必要があるとされています。

  1. 知的機能の明らかな制限(推論・問題解決・計画・抽象的思考など)
  2. 適応行動の制限(社会的な状況での自立的な行動が困難)
  3. 発達期(18歳未満)に始まっていること

ここで大切なのは、「単にIQが低い=知的障害」ではないということです。
その人の生活全般にどのような影響があるか、日常の行動がどの程度自立しているか、という「適応行動」も非常に重視されます。



知的障害と他の発達障害との違い

時折、発達障害(ASDやADHDなど)と混同されることがあります。
以下のような違いを押さえておくと、理解が深まります。

区分 主な特徴
知的障害 全般的な認知機能や日常生活に必要な適応力が年齢相応でない。
学習面や生活行動に広い範囲で困難を示す。
自閉スペクトラム症(ASD) 対人関係の困難、こだわりの強さ、感覚過敏など。
知的障害を伴う場合と伴わない場合がある。
注意欠如・多動症(ADHD) 不注意、多動性、衝動性が目立つ。
知的機能が平均以上の場合もある。


このように、知的障害は「知的機能や適応行動の発達に課題がある状態」であり、それ以外の発達障害とは異なる支援が求められることもあります。




IQ(知能指数)はどこまで参考になる?

IQは、知的障害の診断の際に一定の目安となりますが、支援の現場では「数値だけで判断しない」ことが大原則です。
IQが70未満であっても、日常生活ではほとんど困難を感じない人もいれば、IQが高くても社会的な自立が難しい人もいます。

IQとは、「その人の得意なこと・不得意なことのごく一部を数値化した指標」にすぎません。
むしろ、本人の「得意な伝え方」「落ち着ける環境」「理解しやすい方法」を見つける方が、はるかに大切です。




知的障害は「固定されたもの」ではない

「知的障害」と診断されたからといって、その人の可能性や発達が止まるわけではありません。
むしろ、適切な支援や関わりがあれば、驚くほど成長を見せる人もたくさんいます。

たとえば、言葉が出ないまま就学したお子さんが、絵カードやタブレットを使ったコミュニケーションを通して「自分の気持ちを伝える」喜びを覚え、次第に口頭でのやりとりが増えていくようなこともあります。

「この子は〇〇だから無理」と可能性に蓋をせず、「今はここにいる。でも、ここから育っていく」という見方を大切にしたいですね。




誤解や偏見が、本人の力を奪うこともある

知的障害に対する誤解は根深く、時に支援者や教育者の側にも無意識に存在しています。
「ゆっくりなだけで理解していないわけではない」「伝え方を変えれば、しっかり応答できる」――そんな例はたくさんあります。

私たちができるのは、「その子ができる方法を探す」ことです。
それは特別なスキルではなく、「その人を一人の人として、尊重して関わる」ことから始まります。




知的障害は「わかりにくさ」の一形態

私たちが日常で行っている「時計を読む」「順番に並ぶ」「人の気持ちを読む」といった行動は、実はとても複雑な知的処理を伴っています。
知的障害がある人にとって、それらはすぐには身につかない「わかりにくさ」の対象かもしれません。

でも、「わからないこと」があるのは誰でも同じ。
大切なのは、その「わかりにくさ」をどう埋めるか、どう一緒に考えるか、です。




おわりに〜第2回に向けて

今回は、「知的障害」とは何かという基礎的な部分をお伝えしました。
次回からは、「知的障害の度合い(軽度・中等度・重度・最重度)」について、より具体的な違いや、どのような支援が求められるのかを詳しくご紹介します。

「ひとくくりではない知的障害の世界」に、少しずつ足を踏み入れながら、誰かの理解と安心につながるヒントを、共に見つけていければと思います。