「暴れる」「物を壊す」「人にかみつく」――。
強度行動障害という言葉を耳にすると、多くの人がこのような激しい行動をイメージするかもしれません。けれど、その行動の奥には、言葉にならない「助けて」のサインが隠れています。

今回は、強度行動障害の基本的な理解から、家族や支援者がどのような視点で関わっていけばよいのかを考えていきます。



◆ 強度行動障害とは?

「強度行動障害」とは、自傷行為や他害行為などの激しい行動が継続的に見られ、日常生活や社会参加に著しい困難をもたらしている状態を指します。

この言葉は「診断名」ではなく、あくまで支援上の必要性を示す概念です。
たとえば、自閉スペクトラム症や知的障害をもつ人の中で、感覚過敏・不安・ストレスなどから行動が激しくなる場合、「強度行動障害がある」と表現されます。

厚生労働省の定義では、以下のような状態が該当します。

  • 自傷・他害・破壊行動などが頻繁に見られる
  • 行動の強度・頻度が高く、介護者の負担が大きい
  • 医療的支援や複数の専門職によるチーム支援が必要

つまり、「本人の困りごとが強く、周囲も支援の工夫を必要としている状態」なのです。



◆ 「行動」を責めない視点を持つ

強度行動障害のある子どもを育てている家庭では、「どうしてこんなに激しくなるの?」「叱っても直らない」と悩む声が多く聞かれます。
しかし、行動そのものは“困っていることを表す手段”であり、問題そのものではありません。

たとえば――

  • 「耳をふさぐ」→ 大きな音が苦手
  • 「人の腕をかむ」→ 不安や要求を伝えたい
  • 「壁を叩く」→ 感覚刺激を求めている

このように、行動の背後には「理由」や「意味」があるのです。
私たち支援者や家族に求められるのは、「どうすれば止められるか」ではなく、「なぜ起こるのか」を探る姿勢です。



◆ 家族が直面する現実

強度行動障害をもつお子さんを育てる家庭では、日常の安全確保さえ難しいことがあります。
一瞬の隙に飛び出す、夜中に起きて騒ぐ、家族を叩いてしまう――。
家族は常に緊張状態の中で生活しているのです。

そのため、保護者の疲労や孤立が深刻化しやすく、「誰にもわかってもらえない」と感じてしまうことも少なくありません。

実際、ある調査(厚生労働科学研究班・2023)では、強度行動障害のある人を在宅で支える家族のうち、約6割が「精神的に限界を感じたことがある」と回答しています。

家庭だけでは抱えきれない――。
だからこそ、地域・医療・福祉・教育がつながる支援体制が求められているのです。



◆ 強度行動障害が起きやすい背景

行動が激しくなる背景には、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
主な要因を整理すると、次のようになります。

  • ① 感覚の過敏・鈍麻:音や光、肌触りなどに過敏な反応を示す
  • ② コミュニケーションの困難:自分の気持ちや要求を言葉で伝えられない
  • ③ 環境の変化への弱さ:予定変更・場所・人の変化に不安を感じやすい
  • ④ 身体的・医療的要因:睡眠障害、便秘、てんかん発作、ホルモンの影響など
  • ⑤ ストレスやトラウマ体験:叱責・不安体験・人間関係の緊張など

これらはどれも、本人が「わざとやっている」のではなく、“自分を守るための反応”であることが多いのです。



◆ 支援の第一歩は「理解」から

強度行動障害の支援において最も大切なのは、まず本人理解を深めることです。
行動の裏側にある「伝えたいこと」「苦手なこと」「安心できること」を整理していくと、支援の方向性が見えてきます。

具体的には次のような視点が有効です。

  • どんなときに行動が出やすいか(時間・場所・相手など)
  • 行動の前後にどんな出来事があるか(ABC分析)
  • 行動が起こらないとき、何がうまくいっているか
  • 本人が落ち着ける「安全な場」や「好きな刺激」は何か

これらの情報をもとに、「支援計画」を立て、家庭・学校・事業所が共有していくことが大切です。



◆ 「行動」から「生活」へ視点を広げる

行動をコントロールしようとするだけでは、根本的な支援にはつながりません。
支援の目標は、「行動を減らす」ことではなく、「安心して生活できる環境を整える」ことです。

たとえば、構造化された空間(見通しのある環境)や、視覚支援を使ったスケジュール提示など、小さな工夫が大きな安心感につながります。
また、行動が落ち着くと、本人の「好きなこと」「得意なこと」も見えやすくなり、生活の質(QOL)が向上していきます。



◆ 家族・支援者・地域が一緒に歩むために

強度行動障害の支援は、決して家庭だけ、学校だけで完結するものではありません。
医療・福祉・教育・行政が連携し、「チームとして支える」ことが重要です。

たとえば、医療機関での薬物療法を組み合わせたり、地域支援センターがコーディネートを行ったりと、複数の専門機関が関わることで、支援の安定化が図られます。

そして、何より忘れてはならないのは――
「行動の奥には、本人の尊厳と意思がある」ということです。




◆ まとめ

強度行動障害という言葉は、「大変な行動」を示すように見えて、実は「支援を必要としているサイン」でもあります。
本人の中で何が起きているのか、何が安心につながるのかを丁寧に見ていくことで、支援の可能性は広がります。

家庭だけで抱え込まず、専門機関や地域のネットワークを頼ること。
そして、行動の奥にある“その人らしさ”を大切にすること。
それが、強度行動障害のある方の「暮らしの支援」の第一歩となるでしょう。