第3回 きょうだい児のストレスサインと学校との連携
きょうだい児――それは、障害や慢性疾患を持つ兄弟姉妹とともに暮らす子どもたちのことです。
彼らは日常の中で、多くの理解と適応を求められる存在ですが、その思いはなかなか表に出ないことが少なくありません。
今回を一旦最終回として、きょうだい児が発する小さな「ストレスサイン」をどう見抜くか、そして家庭と学校がどのように連携して支えていくかを中心にお話しします。最後は、きょうだい児が前向きに未来を歩んでいくための希望についても触れたいと思います。
きょうだい児の抱える心理的背景
臨床心理学の研究では、きょうだい児は以下のような感情を抱きやすいことがわかっています。
- 「自分は後回しにされている」という寂しさ
- 「自分まで迷惑をかけてはいけない」という自己抑制
- 兄弟姉妹への愛情と同時に感じる嫉妬や怒り
- 家庭の安定を守ろうとする過剰な責任感
こうした感情は、周囲が意識して聞き取らなければ見過ごされがちです。特に自己抑制が強い子は、表面的には「手がかからない良い子」に見えるため、支援が遅れやすいという報告もあります(厚生労働省・ヤングケアラー実態調査 2021)。
見逃されやすいストレスサイン
きょうだい児が発するSOSは、必ずしも「泣く」「怒る」といった分かりやすい形ではありません。むしろ、次のような微細な変化として現れることが多いのです。
- 以前好きだった遊びや趣味への関心が薄れる
- 体調不良(腹痛・頭痛・吐き気など)が頻繁に起きる
- 眠れない、または朝起きられない日が増える
- 学校の成績や集中力が低下する
- 家族や友人との会話が減る
臨床心理学では、これらは「身体化症状」や「情緒的引きこもり」と呼ばれるサインに分類されます。大人から見れば「ちょっと元気がないだけ」に見えても、本人の中では慢性的なストレスが積み重なっている可能性があります。
ストレスサインに気づくための観察ポイント
保護者や周囲の大人ができるのは、日常の変化に敏感になることです。ポイントは「比較」です。
昨日と今日、先月と今月で、表情・行動・発言の頻度が変化していないかを意識してみましょう。
例えば、明るくよく喋っていた子が最近無口になった、好きな習い事に行きたがらなくなったなど、小さな変化でも記録しておくと良いです。学校と共有するときも、この記録は大きな助けになります。
学校との連携の必要性
きょうだい児の支援は、家庭だけで抱えるには限界があります。学校が日中の生活の大半を占める以上、そこに理解と配慮がなければ、本人の安心感は十分に確保できません。
文部科学省のガイドラインでも、家庭と学校の「情報共有」は児童生徒の福祉的支援に不可欠とされています。
連携のために保護者ができること
- 家庭での様子(気分の波・睡眠・体調・兄弟との関係)を簡潔に記録して学校に伝える
- ストレスサインが見られた際は、早めに担任や養護教諭に相談する
- 本人が安心して話せる方法やタイミングを一緒に考え、無理のない情報共有を行う
学校ができること
- きょうだい児が安心して話せる大人(担任・養護教諭・スクールカウンセラーなど)を配置する
- 行事や学習活動での過度な負担を避ける配慮
- 必要に応じて特別支援コーディネーターや外部専門家と連携する
地域・外部機関との協働
地域の児童家庭支援センターやファミリーサポート、ヤングケアラー支援団体などを活用することで、家庭と学校の間をつなぐ「第三の支え」ができます。
特にヤングケアラー該当ケースでは、家事や介護の一部を外部に委ねる仕組みを導入することで、きょうだい児が自分の時間を取り戻せます。
きょうだい児の強さと可能性
きょうだい児は、早い時期から多様な人間関係や状況に向き合う経験を積みます。心理学的にも、この経験は「共感性」「問題解決力」「責任感」といった社会的スキルの土台になり得るとされています。
- 高い共感力と洞察力
表情や声の調子、仕草から相手の変化を敏感に察する力が自然と身につきます。これにより、周囲の人の気持ちを深く理解し、思いやりを持って接することができます。 - 優れた柔軟性と問題解決能力
予定の変更や予期せぬ出来事に対応する経験から、変化に強く、どんな状況でも冷静に考え、臨機応変に対応する力が養われます。 - 責任感と人との信頼関係を築く力
家庭の中で役割を担う経験を通して、年齢以上の責任感と自立心が育まれます。また、周囲の役に立つ経験を重ねることで、人との信頼関係を築く力も身につけていきます。
これらの強みは、無理に引き出すものではなく、本人が安心して過ごせる環境の中で自然と育まれていくものです。日々の小さな経験と周囲の温かいまなざしが、きょうだい児のしなやかな力を育む土台となるはずです。
未来への希望
「この家族に生まれてよかった」――そう思える瞬間は、日常の小さな場面にあります。
例えば、一緒に笑った時間、悩みを聞いてもらった夜、家族みんなで乗り越えた出来事。これらはきょうだい児にとって、支えになる原体験です。
私たち大人ができることは、その幸せな瞬間を一つ一つ積み上げていくことではないでしょうか。
困ったら助けを求めてもいい、弱音を吐いても大丈夫――そう伝え続けることで、きょうだい児は安心して未来へ進んでいけます。
まとめ
きょうだい児支援は、家庭・学校・地域が三位一体で取り組む必要があります。
ストレスサインを見逃さず、学校との連携を密にし、本人が安心できる環境を整えることが最も大切です。
そして、困難な状況の中で育まれる強さや優しさにも目を向け、その成長をともに喜べる関係を築いていきましょう。
このシリーズは今回で一区切りですが、きょうだい児一人ひとりが「自分らしく生きられる未来」に向けて、私たちができることはまだまだあります。