“いい子”って言われたいけど、本当は…〜きょうだい児が抱える葛藤と本音〜


障害のある子どもを育てる家庭では、その子のサポートに時間もエネルギーも大きく注がれます。そのとき、ふと見過ごされがちになるのが、兄弟姉妹の存在です。「きょうだい児」と呼ばれる彼らは、家庭の中でさまざまな感情を抱えながら日々を過ごしています。


今回は、特別支援学校教諭であり、私自身も発達障害の姉を持つ立場から、「きょうだい児の心の奥にある声」に光を当ててみたいと思います。


1. きょうだい児の「がまん」は、誰にも見えにくい

障害のある子どもがいる家庭では、きょうだい児が自らを「がまんする役割」に置くことがあります。小さなうちから「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だから」「わかってあげてね」と声をかけられ、知らず知らずのうちに、「自分よりもきょうだいが優先される」構図を理解してしまうのです。

もちろん、子どもたちは大人の期待に応えたい気持ちも持っています。「いい子だね」「助かるよ」と言われることで、役に立っていると感じ、褒められることで自尊心をつなぎとめようとします。

でも本当は、「本当はもっと甘えたかった」「なんで自分ばっかり我慢しなきゃいけないの?」という気持ちを抱えていることもあります。こうした思いを抱き続けることが、思春期以降に心のしんどさとして現れることもあるのです。


2. 「いい子」として生きる中で、自分の気持ちを見失ってしまう

以前、学校で出会ったある中学生の話です。彼は、重度の知的障害と自閉症を併せ持つ弟をもつ「きょうだい児」でした。家庭でも学校でも成績優秀、問題行動もなく「しっかり者」として知られていました。

でも、ある面談の場で、ぽつりとこんな言葉をこぼしたのです。

自分のやりたいことが、よくわからないんです。何が好きとか、本当に楽しいことって、最近考えたことなかったかもしれません

彼は、誰かに迷惑をかけないように、自分の気持ちを抑え続けてきたのです。自分が「やりたい」と思うことよりも、「どうすれば家族の負担にならないか」「親を困らせないか」を優先するようになっていました。

これは、特別な例ではありません。多くのきょうだい児が、同じように「自分らしさ」と「家族の役に立ちたい気持ち」のはざまで揺れながら過ごしています。

彼は大学を卒業後、特別支援学校の教員として働いています。


3. 「私も姉の“きょうだい”でした」

私自身、姉が発達障害を持っています。小さなころは、「なぜこの子はこんなに泣くのか」「なぜ私ばかり手伝いを頼まれるのか」と疑問を感じていました。けれど、その疑問を言葉にすることはできませんでした。

親は姉にかかりきりで、私は「しっかりしているね」「助かるよ」と言われることが多く、自然と“いい子でいること”を自分に課していったのです。

でも、大人になって振り返ると、「あの時、本当は私も抱っこしてほしかった」「ちゃんと見てほしかった」という思いが確かにありました。今、教員としてきょうだい児の姿を見るたびに、自分の子ども時代を重ね合わせることがあります。


4. 気づきにくいサインに、まずは「気づくこと」から

きょうだい児は、自分の不満や悲しみをあからさまに出すことが少ないため、大人が気づかないこともあります。ですが、次のようなサインが見られるときには、心の中に何か引っかかっている可能性があります。

  • 学校では「良い子」だが、家では怒りっぽい・甘える
  • 「自分なんて」と卑下するような言葉をよく使う
  • 弟や妹に対して過剰に手伝おうとする、あるいは強く当たる
  • 自分の気持ちや希望を話さない、あきらめが早い

こうしたサインがあったとき、「どうしてこんなことするの?」ではなく、「どんな気持ちがあるのかな?」という視点で関わってみてほしいと思います。


5. 大人ができる、きょうだい児への寄り添い

きょうだい児への支援は、特別なことではありません。ほんの少しの気づかいが、彼らの心を大きく支えます。

1. 「ありがとう」と「ごめんね」を言葉にする

きょうだい児に何かを頼んだとき、つい当然のように感じてしまうことがあります。でも「お手伝いしてくれてありがとう」「無理させちゃってごめんね」と伝えるだけで、気持ちは大きく違います。

2. 1対1で関わる時間をつくる

意識的に「その子だけの時間」を作ることが大切です。10分でもいいので、好きな遊びや話を一緒にすることで、「自分も見てもらえている」と感じられます。

3. 感情を出せる場所・人をつくる

学校や学童、親戚、外部の支援者など、子どもが安心して感情を出せる場所があるとよいでしょう。家庭以外で「本音」を話せる相手がいるだけで、ずいぶん気持ちが軽くなります。


6. 「支援が必要なのは、弟や妹だけじゃない」

きょうだい児は、「支援される存在ではない」と思われがちです。でも、彼らもまた、特別な配慮が必要な“子ども”です。

今、全国的にも「きょうだい支援」に関する取り組みが増えつつあります。支援者向けの研修、家族会、専門書籍、自治体の相談窓口なども少しずつ整ってきました。

何より大切なのは、「あなたのこと、ちゃんと見てるよ」「我慢しなくていいよ」というメッセージを、私たち大人が伝え続けることです。


おわりに

障害のある子どもへの支援が大切なように、そのきょうだいたちへのまなざしも、同じように大切です。きょうだい児の声なき声に耳を傾け、彼らが「自分らしく生きること」を応援できる家庭や学校、社会を目指して、これからも現場から発信を続けていきます。


次回は、「きょうだい間のトラブルとその背景」について掘り下げていきます。