第3回:「防ぐ力を育てるには」〜ネットリテラシーを支える教育・支援の工夫〜
前回までは、発達障害・知的障害のある子どもたちにネットの危険をどう伝えるか、どのように付き合っていくかについてお話ししてきました。最終回となる今回は、「ネットトラブルから自分を守る力=ネットリテラシー」を、どうすれば育てていけるのか。その支援の工夫について掘り下げていきます。
■ 「ネットリテラシー」とは?
ネットリテラシーとは、「インターネットを安全に・正しく使うための判断力・知識・態度」を指します。
SNS・ゲーム・動画サイトなど、ネットを通じて情報に触れる場面が増えた現代の子どもたちには、欠かせない力です。
たとえば以下のような力が含まれます:
- うそやフェイク情報を見抜く力
- 他人に迷惑をかけない投稿の仕方
- 個人情報を守る意識
- 困ったときに相談する判断力
しかし、知的・発達に特性のある子どもたちの場合、抽象的な思考・因果関係の理解・想像力に課題があるケースも多く、これらを育てるには、特別な工夫と時間が必要です。
■ なぜトラブルは起こるのか?
ネットトラブルは、決して「悪意」や「だらしなさ」から起こるわけではありません。多くの場合、以下のような“つまずき”から起きています。
- 「言ったらダメ」と聞いていたけど、つい本名を打ち込んでしまった
- 友達と仲良くなりたくて、写真を送ってしまった
- ゲームで仲良くなった人が、悪い人とは思えなかった
こうした背景には、言葉の意味を正しく理解できていなかったり、目の前の楽しさに夢中で危険性を想像できなかったりという、発達特性による理解のギャップがあります。
だからこそ、支援の視点は「できないことを責める」のではなく、“防げる仕組み”をつくることに向けられるべきです。
■ 支援の基本は「視覚化」「反復」「体験」
ネットリテラシーの支援には、以下の3つの基本が非常に効果的です。
- 視覚化:見て理解できるようにする
- 反復:何度も繰り返して学ぶ
- 体験:実際にやってみて学ぶ
① 視覚化の工夫
口頭だけの説明では伝わりにくい子どもには、「図」「写真」「イラスト」などで具体的に示すことが大切です。
例:
- 「これは言ってもいい?ダメ?」をイラスト付きの“OK/NG表”で見せる
- 「SNSに載せてはいけないもの」の写真カードを使う
- スマホやPCの画面を印刷し、操作を視覚的に確認する
特に、具体的な危険例を視覚化すると、「あ、自分もやりそう」と実感につながります。
② 反復による定着
一度伝えただけで「理解した」と考えるのは危険です。
知的障害のある子どもにとっては、「学んだことが実生活に活かせる」ようになるまでには何度も繰り返し、場面を変えて伝える必要があります。
学校・家庭・支援機関が連携し、共通のルールやメッセージを一貫して伝えることが効果的です。
③ 模擬体験・ロールプレイ
「もし、ゲームの中で知らない人から“写真送って”って言われたらどうする?」
「この画面が出たら、どこを押す?」
こうした「模擬場面」を体験しながら、選択肢を練習する機会を作ることで、判断の土台が育っていきます。
■ 保護者・支援者向けの教材・ツール紹介
以下は、発達障害や知的障害のある子どもたちへのネット支援に活用できる教材やツールの一例です。
1. IPA「子どもとスマホ」教材(保護者向け)
- 独立行政法人情報処理推進機構が提供
- 漫画や動画、ワークシートで「SNSトラブル」などをわかりやすく解説
- https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/
2. LINEみらい財団:インターネットの正しい使い方教材
- 発達障害の特性を踏まえた指導案・動画教材
- 「LINEで起きる誤解・トラブル」など事例に即した学習が可能
3. 文部科学省「情報モラル教育」教材
- 小・中・高等学校向けに場面別指導資料あり
- 教員向けガイドブックも充実
教材を選ぶときは、「子どもが実際に使っているツールに即しているか」「本人が興味を持てる形式か」を重視しましょう。
■ 学校現場の取り組み例
特別支援学校や支援学級でも、ネットトラブルに備える指導が増えてきています。以下は実際の取り組みの例です。
- スマホ使用ルールの壁紙化:スマホのロック画面に「していいこと/ダメなこと」を画像で表示
- “もしもカード”づくり:困ったときにどうするかをカード形式で練習
- ネット・SNSのマナー劇:ロールプレイや紙芝居で「こう言われたらこう返す」を体験
こうした活動は、子ども自身が「自分のこと」として考え、納得して学ぶきっかけになります。
■ 教えっぱなしにしない。継続と見守りを
ネットリテラシー教育に“ゴール”はありません。
社会やアプリが進化するたびに、トラブルの形も変わっていきます。
だからこそ、「一度教えたから安心」ではなく、「常に一緒に考え続ける」姿勢が大切です。
子どもが悩んだとき、間違えたとき、失敗したとき、
「どうしてそうしたの?」と責めるのではなく、「どうしたらよかったかな?」と一緒に考えることが、次の一歩につながります。
■ まとめ
- ネットリテラシーとは、“自分を守る判断力”のこと
- 視覚化・反復・体験が、発達特性に応じた支援のカギ
- 家庭・学校・支援者が一貫したルールと対応を
- 教えっぱなしにせず、日々の生活の中で学びを育てる
インターネットの世界は、危険と同時に可能性も秘めています。
だからこそ、ただ怖がるのではなく、「どう付き合っていくか」を一緒に考えられる大人の存在が、子どもたちにとって何よりの安心となるはずです。
お付き合いありがとうございました^_^
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