前回の記事では、「落ち着きや集中を助ける薬」や「不安や緊張をやわらげる薬」についてご紹介しました。今回はその続きとして、子どもたちの生活の中で特に課題となりやすい「気分の波」「感覚の過敏さ」「睡眠リズム」などに対する薬についてご紹介します。
薬を使うかどうかは、あくまで本人とご家族の希望に寄り添い、必要に応じて活用されるものです。教員として関わる中で見えてきた現場の視点も交えつつ、保護者の方が少しでも安心して選択できるように、分かりやすくまとめていきます。
③ 気分の波を整える薬
対象となるケース:
- 情緒の起伏が激しく、怒り・悲しみなどが爆発的に現れる
- ささいなきっかけで癇癪を起こし、自他への攻撃が見られる
- 気分の変動が激しく、落ち着いた時間が持ちにくい
こうしたケースでは、いわゆる「気分安定薬」や、感情の調整を助ける薬が使われることがあります。脳の働きをゆるやかに整えることで、急激な気分の変動がやわらぐことが期待されます。
効果:感情のコントロールの向上、衝動性の低下
副作用例:体のだるさ、軽い吐き気、便秘、けん怠感など
気分安定薬は、急な変化ではなく「少しずつ穏やかになる」ような効果を目指す薬です。副作用も個人差が大きいため、少量から慎重に処方されるのが一般的です。
④ 感覚の過敏さを和らげる薬
対象となるケース:
- 音や光などの刺激に非常に敏感で、生活に支障が出る
- 肌の感覚に強い違和感があり、着替えや入浴を極端に嫌がる
- 不快な感覚への反応として自傷行為などが見られる
こうした感覚過敏への対応として、過緊張を和らげる薬が処方されることもあります。これは不安や興奮を抑える作用を持つ薬と重なることもあり、症状に応じて選ばれます。
効果:刺激に対する反応のやわらぎ、安心感の向上
副作用例:眠気、口の渇き、反応の鈍さ
感覚過敏は、外からは見えづらい困りごとのため、保護者と学校の密な連携で日々の様子を記録し、薬の効果を評価していくことが大切です。
⑤ 睡眠を整える薬
対象となるケース:
- 夜になっても眠れず、昼夜逆転してしまう
- 夜中に何度も目を覚まし、不安定な睡眠が続く
- 睡眠不足により、日中の集中力が低下している
睡眠の乱れは、子どもの行動や情緒に大きく影響します。そのため、睡眠導入を助ける薬が処方されることがあります。最近は、より自然な睡眠に近づけることを目的に、ホルモンを調整するタイプの薬も使われています。
効果:入眠のしやすさ、睡眠リズムの調整、日中の安定
副作用例:朝の眠気、けだるさ、目覚めの悪さ
一方で、薬に依存しない睡眠習慣の見直し(照明、生活リズム、音など)もあわせて支援することが大切です。薬はあくまでも一時的な補助と捉える方も多くいます。
「薬=最後の手段」ではありません
服薬について、「できれば薬には頼りたくない」と感じる保護者の方も多くいらっしゃいます。そのお気持ちはとても自然なことです。
一方で、子ども本人の苦しさが大きく、「薬を使った方が楽に過ごせる」「学校生活が安定する」というケースも少なくありません。
服薬を「最終手段」と捉えるのではなく、「いまの生活をより安心して送るための一つの選択肢」と考え、必要に応じて一時的に使うという視点も大切です。
学校と家庭、医療の連携で支える
薬を使うと決めたとしても、その後の「見守り」と「情報の共有」が何よりも重要です。副作用は? 本当に効果は? 生活にどんな変化があったか?
教員は日中の子どもの様子をしっかり観察し、「最近落ち着いているね」「昼間にウトウトしてしまうことがあるね」など、具体的な記録を保護者や医師に伝えます。
また、子ども自身の言葉にも耳を傾け、「気持ちが落ち着いたよ」「朝はまだねむいんだ」など、本人の感覚も尊重していくことが大切です。
おわりに
服薬は、本人のQOL(生活の質)を高めるための「道具」のひとつです。使うかどうかはご家庭ごとの選択ですが、「正しい情報を知る」ことが納得のいく判断につながります。
今後も、特別支援教育の現場から、子どもたちの生活を支えるための情報を発信していけたらと思います。