障害のある子どもと服薬 について〜よく使われる薬の種類と目的(前編)〜

はじめに

特別支援学校で働く教員として、日々さまざまな子どもたちと関わる中で、「服薬」を支援の一つの選択肢として捉えることの大切さを実感しています。

今回の記事では、保護者の方がよく不安を抱く「どんな薬が使われているのか?」という疑問に応えられるよう、子どもたちによく処方される薬の種類とその目的についてご紹介します。

薬の使用をすすめる内容ではありません。あくまで、子ども本人やご家庭が「よりその子らしく、穏やかに毎日を過ごせるように」という視点から、情報をお伝えいたします。


服薬の目的は「生活の質の向上」

服薬の目的は、症状を完全に消すことではありません。日常生活の中で困りごとが少しでも和らぎ、本人が安心して過ごせること、またご家族の負担が軽くなり「楽しい毎日」が増えることが最も大切です。

子どもによっては、困り感が行動となって現れることがあります。たとえば以下のようなケースがあります:

  • 感覚が過敏で音や触覚に強い不快感を示し、泣き叫んだり自傷行為につながる
  • 落ち着きがなく、衝動的に走り出す・物を壊すなどしてしまう
  • 不安が強く、学校や外出の場で極度に緊張し続けてしまう

こうした困り感を抱えている子どもに対して、環境調整や関わり方の工夫と並行して、必要に応じて服薬という手段が使われることもあります。


よく使われる薬の種類と目的(前編)

以下では、特別支援学校や外来支援で比較的よく見られる服薬のタイプを、目的別にご紹介します。ここでは、あくまで「一般的な分類名」で記載し、具体的な商品名や成分名には触れません。

① 落ち着きや集中を助ける薬

対象となるケース:

  • ADHD(注意欠如・多動症)などにより集中が続きにくい
  • 授業中の離席や多動が目立ち、学習や生活に支障が出ている

こうした子どもに処方される薬は、脳内の神経伝達物質の働きを整えることで、「落ち着いて話を聞く」「気が散りにくくなる」などの効果が期待されます。

効果:集中力の向上、衝動性の低下

副作用例:食欲低下、寝つきにくさ、感情の起伏

薬の効果は個人差が大きく、学校では「今日はよく机に向かえていたね」「友達とのトラブルが減ってきたね」など、変化の様子を見守り、保護者と情報共有します。

② 不安や緊張をやわらげる薬

対象となるケース:

  • 極度の緊張や不安で、登校時にパニックになる
  • 場面緘黙など、強い不安によって人と話すことが難しい
  • 予期しない出来事に敏感で、自傷や他害行為に至る

このタイプの薬は、心の過緊張をやわらげる目的で使われることが多いです。精神的な安定を促し、刺激への過敏な反応を緩和することで、「日常生活がしやすくなる」という形で効果を発揮します。

効果:情緒の安定、不安や緊張の軽減、睡眠の改善

副作用例:眠気、頭のぼんやり感、日中のけだるさ

眠気が強く出ると学習や活動に支障が出るため、処方量の調整やタイミングの工夫(夜のみ服用など)も行われます。


保護者との連携が重要です

服薬の効果や副作用は、学校での様子だけで判断することはできません。家庭での過ごし方や表情、日中の疲れやすさなども含めて、保護者との情報共有がとても大切です。

「最近よく寝られているようです」「急に怒ることが減りました」など、ささいな変化でも共有することで、医師との連携もスムーズになります。


おわりに

次回は、気分の波や過敏さ、睡眠の調整を目的とした薬についてご紹介します。薬を活用することがゴールではなく、「その子らしく過ごすこと」を支える一つの手段として、丁寧に考えていけるといいですね。