場面緘黙の子どもに対する個別支援の工夫と実践
場面緘黙の子どもへの支援は、「話せるようになること」だけを目的とせず、安心して自分を表現できる環境づくりから始まります。
今回は、より具体的な支援のステップやツールの活用例、個別の支援計画(IEP)にどう組み込むかといった実践例を紹介します。
1.個別の理解を深める
まずは、子ども本人の状況を丁寧に把握します。
- どんな場面で緊張が強くなるのか
- 家庭ではどう話しているか、どのような言葉を好むか
- どんな支援が「安心」につながるのか
保護者との連携は必須です。家庭での様子や過去の対応、成功体験などを共有してもらうことで、学校での支援の質が高まります。
2.非言語コミュニケーションから始める
「話すこと」ではなく、「伝えること」ができるようにサポートすることが最初の目標です。
●活用できるツール例
- Yes/Noカード:質問に対しカードを選んで提示
- 絵カード:気持ちや希望を絵で表す
- 選択カード:「Aにする? Bにする?」などの選択肢提示
- ジェスチャーの導入:「いいね=親指を立てる」などの動きで意思表示
子どもが「伝えられた!」という達成感を味わえることが、次のステップへの橋渡しになります。
3.個別支援計画(IEP)への組み込み例
IEPに「話すこと」を直接の目標とするのではなく、段階的な目標を設定します。
例)小学2年生 女児
- 長期目標:安心できる場面で、ジェスチャーや筆談を用いて自分の思いを伝えられる
- 短期目標:
- 支援員に対して、絵カードで意思表示ができる
- 休み時間に好きな遊びをジェスチャーで伝える
- 友だちの質問にうなずく・首を振るなどの反応ができる
評価は「できた・できない」ではなく、取り組もうとした姿勢も含めて肯定的に。
4.関係性を築く工夫
話す・話さないにかかわらず、安心できる大人との信頼関係が何より大切です。
- 毎日同じ人が関わるようにする
- ルーティンを作り、先が見通せるようにする
- 話しかけるときはプレッシャーを与えない
- 「話してくれてありがとう」より「来てくれてうれしい」「教えてくれてありがとう」と伝える
表情やしぐさなど、どんな小さなサインも見逃さずに、心を向けてくれる大人の存在が安心を支えます。
5.少人数や個別の場を活用
「教室の中で話す」ことが難しい場合、別室や個別の環境を取り入れることで、声が出せることもあります。
例:支援室での段階的支援
- 絵カードやYES/NOカードでやり取り
- 小さな声で一言話す(ぬいぐるみに耳打ち → 支援者に)
- 録音ボタンやタブレットで音声を録音し再生
- 音読の録音 → 教室で流す(本人は不在でもよい)
「声を出す」という行動が“安心してできるもの”であることを少しずつ体験してもらいます。
6.ICT機器の活用
最近では、タブレットや録音機能付きのおもちゃなどを活用して、「間接的に話す」支援も可能になっています。
- 音声入力アプリでのメッセージ送信
- ボイスレコーダーで自分の声を録音 → 再生
- トーキングボタン(押すと録音した音声が流れる機器)
自分の声が誰かに届く体験が、やがて「直接話す」ことへのステップにつながることもあります。
7.無理に「話すこと」を求めない
最も大切なのは、「話せるようになる」ことを焦らないことです。
支援者が話すことを期待しすぎてしまうと、かえって子どもは「またできなかった」と自信を失ってしまいます。
- 「声を出さない=失敗」ではない
- どんな方法でも「伝えようとした」ことを評価
- できた日はそっと喜び、できない日はそっと寄り添う
まとめ
場面緘黙の子どもたちは、「話さない子」ではなく、「安心できる環境と人との関係性の中で、表現する力を育んでいく子」です。
できないことではなく、できたことに目を向けて、一緒に歩む伴走者であり続けること。子どものペースを信じて、日々の小さな前進を支えていくことが、最も効果的な支援です。