発語が少ない子どもへの支援|実践編③
発語が少ない子どもへの支援、第3弾です。今回は、ことばの前段階である「ジェスチャー」や「視覚支援」、そしてことばの構造(文法)を育てる関わりを紹介します。
① ジェスチャーを引き出す関わり
「ことばが出る前」に子どもたちがよく使うのがジェスチャーです。指さし、手を伸ばす、うなずく・首を振る、バイバイなど、意味を持つ動作はすべて「伝える手段」になります。
支援のポイント:
- 日常の場面で、大人が積極的にジェスチャーを使って見せる
- 子どもが自然に使えるように、無理に言葉を言わせず「うなずき」「指さし」などを受け止める
- 伝わったときには、しっかりと反応する(「そうだね!」「うん、あれが欲しいんだね」など)
まずは「言葉じゃなくても伝えられる」安心感を育てることが大切です。
② 指さしの育て方
「指さし」は、共同注意や語彙の増加に直結する大切なスキルです。
支援例:
- 絵本やおもちゃを使って「どっち?」「どこかな?」と選ばせる
- 大人が子どもの目線に合わせて、指さして見せる
- 指さしが難しい場合は、視線や手を伸ばす動作も代替手段として受け止める
言葉の出現前に「選ぶ・示す・比べる」体験をたくさん積むことで、表現の力がついていきます。
③ イラストや写真を活用する
視覚的な情報は、発語が少ない子にとって「わかりやすさ」と「安心感」を与えてくれます。
支援に使えるツール:
- 身近な物の写真(コップ、ごはん、くつなど)
- 絵カード(気持ち、行動、場所など)
- 予定カード(今何をするか、次に何をするか)
「言葉で言えなくても、選んで伝える」経験が、「ことばにしたい」という気持ちにつながります。
④ 動詞・形容詞を引き出す
名詞(ものの名前)から始まった語彙は、やがて動詞(すること)や形容詞(様子)へと広がります。
関わりのコツ:
- 「なにしてる?」と聞く代わりに、「ジャンプしてるね!」「ぬれてるね〜」と大人が実況する
- おままごとなどの中で、「食べる」「こぼす」「冷たい」などの表現を使って聞かせる
- 絵カードや写真を並べて、「どっちが泣いてる?」「どれが走ってる?」などと遊ぶ
発語が難しくても、意味を理解していれば、後から必ずついてきます。
⑤ 構文理解を育てる遊び
「りんご たべる」「ぼく の くつ」など、語と語の関係を理解する力を構文理解といいます。これを支えるための工夫も大切です。
遊びの例:
- 「〇〇が××する」絵カード並べ遊び(例:「いぬ が ねる」など)
- ブロックや人形を使って「青いブロックをください」「大きいボールを投げて」などの指示遊び
- 写真を見せながら「誰が食べてる?」「どこにいる?」と問いかける
発語はなくても、構文の理解が深まることで、やがてことばとして表出される力が育ちます。
⑥ 保護者や周囲との連携
支援の場面だけでなく、家庭や園・学校でも一貫した関わりがあることで、子どもの発達はスムーズになります。
連携のコツ:
- 「こんなサインで伝えていました」「このカードを使っていました」と情報共有
- 保護者の方に「無理に話させなくてもOK」「伝わったことに反応するだけでも大切」と伝える
- 子どもが見せた反応や新しい表現を記録して共有する
「うちの子、ことばが出なくて心配…」という気持ちに寄り添いながら、できていること・伝えようとしている姿を丁寧に拾っていきましょう。
まとめ
発語が少ない子どもたちには、「伝えよう」とする姿を育てる支援が何よりも大切です。
ことばはゴールではなく、子どもと大人の心をつなぐ「手段」です。その土台には、「わかってもらえた」「伝わった」という小さな喜びの積み重ねがあります。
ジェスチャーも、視線も、絵カードも、ことばの芽です。あたたかく受け止めながら、一歩ずつ育てていきましょう。