強度行動障害について⑤
強度行動障害のあるお子さんの支援では、家庭・学校・福祉サービスだけでは対応が難しい場面が少なくありません。とくに睡眠・食行動・気分の変動・てんかん・感覚過敏など、医学的な背景が関わる行動は、医療のチームと結びつくことで初めて改善の糸口が見えるケースも多くあります。
この記事では、特別支援学校での長年の実践と、保護者から寄せられてきた声をもとに、「医療との連携」をわかりやすく整理します。 「どこに相談すればいいの?」「診断は必要?」「薬は使うべき?」と迷うご家庭に、安心して進められる道筋を示します。
1.医療との連携が必要になる“サイン”とは?
次のような行動が見られた場合、「環境調整」や「支援の見直し」だけでは十分に改善しないことがあります。
- 睡眠が極端に乱れる(ほぼ眠らない/昼夜逆転が治らない)
- 突発的な興奮が続き、刺激の少ない環境でも落ち着かない
- 自傷行為が強まり、頻度や強さが段階的に増えている
- 激しいこだわりの増加、パニックが連日起きる
- 急な行動悪化があり、周囲が「今までと違う」と感じる
- てんかん・消化器症状・痛みを示唆する行動が見られる
強度行動障害の行動には、「見えない痛み」「睡眠障害」「脳波の問題」「精神症状」「感覚処理の困難」など、医学的な要因が関わっていることがよくあります。 医療との連携は、行動の背景をより多面的に理解するための“もうひとつの目”となります。
2.どの医療機関に相談すればいい?
強度行動障害のあるお子さんが利用しやすい医療は、主に次の4種類です。
● ① 小児精神科(児童精神科)
行動・睡眠・情緒の問題を総合的に診る中心的な医療機関です。 発達特性、強度行動障害、二次障害(不安・抑うつ)など幅広く相談できます。
● ② 発達外来(発達クリニック)
診断、薬物療法、生活面の助言などが得られます。地域の“発達支援の拠点”として非常に重要です。
● ③ 小児科・神経内科
てんかんや睡眠障害、消化器症状など、特定の身体症状が疑われる場合は小児科的なアプローチが必要です。
● ④ 精神科(思春期以降)
中学生・高校生になると、一般の精神科が受診先となることも増えます。 学校と情報共有できる医療機関を選ぶと連携がスムーズになります。
「どこに行けばいいかわからない」場合は、まず学校か相談支援専門員へ。 どこが受け皿になれるか、地域ごとの特性もふまえて案内してくれます。
3.医療と学校はどう連携している?
● 情報共有の中心は「個別の教育支援計画」
特別支援学校では、医療から得られた情報(診断名・特性・配慮点・薬の影響など)を、保護者の同意のもと「個別の教育支援計画」に反映しています。
● 担任は“行動変化”の情報提供者
薬の影響や睡眠の変化は、家庭だけでは把握できません。 学校での「午前は眠い」「午後から行動が荒れる」など、時間帯の変化を医療へ伝えることで、薬の調整がスムーズになります。
● 学校・医療・福祉の“3者会議”が有効
学校では必要に応じて、医師・心理士・相談支援専門員・保護者・担任が集まり、支援方針を一緒に作るケースもあります。 行動の背景が整理され、家庭の負担が大きく減ることも珍しくありません。
4.「薬を使うのは不安…」という保護者への考え方
薬物療法は「行動を抑えるため」だけのものではありません。 実際には以下のような目的で使用されます。
- 睡眠リズムの改善
- 過度の不安や緊張の緩和
- 衝動性の調整
- 感覚過敏で苦痛が強い場合の軽減
- てんかんの安定
薬を使う・使わないの選択は、あくまで家庭が決めることです。 医師はメリット・デメリットを丁寧に説明する義務があります。
特別支援学校では、薬の変更後に行動や眠気の変化を細かく記録し、保護者と医療へフィードバックします。 そのため、薬物療法は「学校との連携があってこそ成立する支援」と言えます。
5.“行動の悪化”の裏に潜む医療的問題の例
特別支援学校でよく見られる「医療的背景が疑われるケース」を紹介します。
● ケース①:自傷の増加 → 実は耳の炎症
耳を叩く・頭を打ちつける行動が急に増加。 受診したところ中耳炎が原因で、治療後に行動が大幅に改善した例があります。
● ケース②:パニックが連日 → 睡眠障害
眠れていないことで、日中の耐性が下がっている状態。 睡眠薬でリズムが整うとパニック頻度が半減することは珍しくありません。
● ケース③:攻撃的行動 → てんかんの増悪
てんかん発作が本人に自覚なく増えており、情緒の乱れにつながっていたケース。 医療調整で安定し、学校生活も落ち着きました。
行動だけを“問題”として見るのではなく、「体のSOS」としてとらえる視点が不可欠です。
6.医療との連携をうまく進めるためのポイント
● ① 家庭・学校での“観察記録”が一番の武器
医師が最も知りたいのは、「いつ、どこで、何が起きているか」です。 学校の記録と家庭のメモが揃うと、診断・薬の調整が格段に早く進みます。
● ② 「困り感」を率直に伝えて良い
「迷惑と思われたくない」「親として弱音を言っていいのか…」と遠慮してしまう保護者は多いですが、 医療は“困り感を出してもらうことで動ける”分野です。
● ③ 薬の効果・副作用は“学校と家庭セット”で見る
副作用(眠気・興奮・食欲の増減)は“家庭だけ”では見極められません。 学校での様子も合わせることで、正確な判断ができます。
● ④ 診断名にこだわりすぎない
診断は支援の道具であり、本人を縛るものではありません。 学校では「診断名そのもの」よりも、“必要な支援をどう組むか”を重視しています。
7.家庭が感じる不安と、その受け止め方
医療につながるとき、多くの保護者が感じる不安には共通点があります。
- 「薬に頼ってしまうのでは…」
- 「診断がつくのが怖い」
- 「受診しても意味があるの?」
- 「医師にうまく説明できる自信がない」
これらはすべて自然な感情であり、誰もが通る道です。 特別支援学校の立場から言えるのは、医療に早くつながった家庭ほど、行動の改善も早いという事実です。
医療は“最後の手段”ではなく、より良い生活への選択肢のひとつです。
8.医療との連携が家庭にもたらす“安心”
医療とのつながりは、行動改善だけでなく、家族の生活を支える重要な柱になります。
- 家庭が一人で背負わなくてよくなる
- 行動の背景が理解しやすくなる
- 危険場面の予防につながる
- 学校・福祉とのチーム支援が整う
- 家族関係の負担が軽減する
つまり、医療との連携は「支援の質」と「家族の安心」を同時に高めるプロセスなのです。
9.まとめ
強度行動障害のあるお子さんの支援では、医療との連携は欠かせません。 家庭・学校・福祉がどれだけ努力しても、医学的な問題が背景にある場合は限界があります。
適切な医療支援につながることで、 「行動の変化」→「生活の改善」→「家族の安心」 という流れが生まれます。
医療は、家庭を追い詰める存在ではなく、 “ともに支えるチームの一員”です。 抱え込みすぎず、一緒に取り組んでいきましょう。