若気の至りとでもいうのか

私にとってそんな大事になるなんて

予想外どころか問題外。

しかもアドリブもできない

嘘もつけない私には

どう乗り切ろうか無い頭で

必死に考えた。


「つぅか、何様のつもり?」


自分でも驚くぐらいの

意外な言葉が飛び出していた。


「大体、ちゃらちゃらバンドなんかやって

声かけてきたのだってそっちでしょ?」


もう止まらない・・・

まさに逆切れってやつ。


「はっきりいってあんたみたいなの、むかつくんだよね。

自分が正しい、自分はかっこいいみたいな。

周りからきゃーきゃー騒がれてるからって

調子乗ってんじゃないの?

そこら辺の女と一緒にしないでよね。

こっちはそんな飢えてるわけでもないし

まぢウザイから」

いいたいだけ言って勢いで電話を切ってしまった。



あぁ・・・計画は台無し。

切った後もしばらくは呆然・・・


私、とんでもないことしちゃった・・・?

とりあえず礼子に電話しなきゃ。


でも・・・

私の心は罪悪感とは裏腹に

すっきりしていた。


これが本当の私なのかもしれない。

今まで周りの目を気にして

言いたいこともいつも言えず

腹におさめて愛想笑いばかり振りまいてた。


本音なんて言っても伝わらない。

誰も信用なんかできない。


そうやって常に壁を作ってきた私にとって

初めて自分を解放できたのかもしれない。


そんな事を考えながら

礼子に電話した。



元々、私はドキドキだけを求めていたのかもしれない。

自分の中でドラマティックなラブストーリーを自分勝手に描いて

刺激だけを求めていたのかもしれない…。


だから時々見せるしんちゃんの予想外な態度は

私を不安にさせたのかもしれないし、

物足りなくも思わせたのかもしれない。


そう。

初めて会ったときのしんちゃんは刺激的だった。

その先の何かを期待させた。

だけど、今思えばそんなことの繰り返し…。



あのとき、私としんちゃんが付き合うのは既に礼子との”計画”の中に組み込まれていた。

その計画では、とりあえず付き合うことにして連絡先をゲットして本題に入るってこと。

1つミスった点は予想以上にしんちゃんがかっこよかったってこと。

また、私たちはお互いに一目惚れしてしまったってこと…。


わたしは律儀にも、また軽薄にも

しんちゃんの携帯番号を礼子にメールした。

そして、礼子は速攻でしんちゃんに告白したってわけ。


すぐに私のところにしんちゃんから電話が入る。

「おい。壁の女にオレの番号送っただろっ!」

「…。」

本当に小さな脳味噌の私にはこの電話は予想外で何も言えなかった。

「あの女、オレに告白してきたんだけど。」

「…。」

「お前ら、ばかなんじゃねーの?!」

耳がビリビリするくらい大きな声でしんちゃんが怒鳴った。

私は変な緊張感を感じた。


恋愛なんて結局きっかけは

ホントにささいなことなんだ。

インスピレーションだとか運命だとか

そんなの初めだけ。


一年も経てば

いつの間にか熟年夫婦みたいな

馴れ合いになって

初めの頃に感じてた新鮮なドキドキ感とか

トキメキとかなんてのは

いつの間にかなくなって

一緒に居るのが当たり前になっていく。


「当たり前」がなくなったとき

初めて自分が幸せだったんだって気付くけど

時すでに遅し。

「大切な物は失ってからその大切さに気付く」

なんて誰かが言ってた。


しんちゃんとは今も一緒に居るけど

お互いがお互いのペースでやって

一緒に居る時間も初めの頃より

だいぶ減ってた。


それでもしんちゃんと居ると

どこか居心地よかったし

何となく安心できる場所だった

それに・・・

しんちゃんと別れたとして

また一から恋愛するのがちょっと面倒くさい

って思ってた。


しんちゃんもきっとそんな気持ちなんだろうなって

そう思ってた。


「ねぇ、私といて楽しい?」


何となく聞いた質問にしんちゃんは

意外な返事を返してきた。


「わかんね。花は俺と居て楽しいの?」


質問したのに質問し返された・・・


「楽しいよ」

「・・・そう。でも・・・お前最近昔みたいに笑わなくなったよな」


確かにしんちゃんの言うとおりだった。

付き合った初めの頃

何もかもがキラキラしてて

何もかもが楽しくて

神様ありがとうって思うくらい

自分が幸せって思ってた。


「そうかもねー。でもしんちゃんも笑わなくなったね」

「俺?俺はもともと笑わねぇよ」


ほらね、やっぱりそういう返事する・・・



幸せって何だろう。

しんちゃんと私の幸せって何なんだろう。。。


このほんの小さな出来事が

私の中に小さなひびを作った。

このときはまだこの小さなひびが

大きくなることなんて予想もしてなかった。