花組『ノクターン-遠い夏の日の記憶-』 | ヅカ鑑賞メモ

ヅカ鑑賞メモ

2013年に入って急にヅカにはまったアラサー初心者です。
あまり遠征出来ないのでたまに観劇感想。

私がwikipediaで薄く把握していたツルゲーネフの『初恋』のストーリーは、ウラジミール(柚香光)が別荘地でモテモテ貧乏お嬢様ジナイーダ(華耀きらり)に初めての恋愛感情を抱くものの、ジナイーダはウラジミールの父であるピョートル(瀬戸かずや)にメロメロ。それが噂になって別荘地を離れるころ、ウラジミールは父がジナイーダを鞭で打ちつけるところを目撃してしまう。そこで「彼女鞭で打たれているのに全然いやがってない……これが恋か!これが愛か!ぼくは何も知らなかった!!!!」なるっていう……(雑)。
はい、主に鞭で打つところが楽しみにしていました。


が、残念ながらその辺はカット!というかナシ!総とっかえ!
別荘地でひょんなことから知り合いになったウラジミールとジナイーダ。彼女は周囲の他の男たちと違って純粋な思いをぶつけてくれるウラジミールのことをきちんと好きになります。
初対面がジナイーダと取り巻き達の遊びに巻き込まれた形なので、彼女に対する第一印象は最悪でしたが、2人だけで会うと彼女はそれまでとはまるで違う印象で、ウラジミールはたちまち彼女に夢中になってしまいました。
2人は森でリラの花を見つけ、ジナイーダはウラジミールにその花言葉を教えます。この2人のシーンは雰囲気があってとても素敵。2人の素晴らしいダンスを堪能出来ました。
しかし勿論めでたしめでたしとはいきません。

お金持ちのウラジミールと親交が出来たことに、五峰亜季さん演じるジナイーダの母、ザセーキナ公爵夫人が目を付けます。
名家であるものの、大借金を残して当主が死んでしまったザセーキナ公爵家の台所は火の車。もうモスクワの家は売ってしまってこの別荘地にしか住まいはなく、今の住居も早晩手放すことになってしまいそうなのです。
ジナイーダが崇拝者の男たちとキャッキャ遊んでいたのは、この窮状から目を背けるためだったんですね。

息子から話を聞いたウラジミールの母オリガからの晩さん会のお誘いに、ザセーキナ公爵夫人はこれ幸いと、娘を連れてお出かけ。そこで「こちらのお屋敷にある名画を私に任せて下さらない?」と絵画を使った詐欺計画をぶち上げます。
最初はお世辞飛び交う穏やかな晩さん会が少しずつ雲行きが怪しくなっていく様はとっても見応えがありました……怖かった……。
当然賢くお堅いオリガは突っぱねてお開きとなりましたが、ジナイーダ親子とその場に残った人物がいました。ピョートルです。

オリガとの窮屈な生活に耐えかねて浮気三昧散財三昧だったピョートル、ザセーキナ公爵夫人が我が家の女どもに一泡吹かせてくれたとたいそうご満悦。「いくら必要なんです?」と言い、気に入ったからとお金を渡します。
「あなたのような人のことは嫌いじゃありませんよ……」といやらしくザセーキナ公爵夫人と見つめ合いますが、ピョートルが本当に狙っていたのは、息子の思い人ジナイーダだったのです。

後日、ピョートルとジナイーダは関係を持ちます。
母親のせいで決して一緒になれなくなってしまったウラジミールとピョートルが同じ目をしていたから、彼女はどうしてもピョートルを拒み切れませんでした。
晩さん会の後ウラジミールにも会うんですけど、ウラジミールは稼ぐ手段もないのに「駆け落ちしよう!2人でパリで暮らそう!」とか夢物語みたいなこと言うしね。いくら惹かれていたとしても、いや惹かれているからこそ、突き放すしかないジナイーダに胸が痛くなりました。


今回ジナイーダは取り巻きやピョートル、ウラジミールにさえも悪女だのファム・ファタールだのしまいにはあばずれだの言われまくりですが、本当は身分相応の誇りと自尊心を持った普通のお嬢さん。
二度目にピョートルがお金を送ってきたときは悩んだ末に受け取り拒否。
はっはっは気分屋のお嬢さんだ^^とピョートルが直接訪ねてきて揉めているところを、ウラジミールが目撃。
彼はそこで、尊敬していた父親が浮気野郎だったこと、金に物を言わせて自分の思い人と関係を持ったこと、そして彼女が本当は自分を好きでいてくれたことを知ります。

動揺して見つかりそうになったので慌てて立ち去りますが、そのときにピョートルに貰ったナイフを落としてしまったので、ピョートルもジナイーダも、ウラジミールに目撃されたことを知るのでした。

そしてクライマックスはウラジミールとピョートルの修羅場(語弊)。ハイハイ修羅場ですよと言わんばかりに外は嵐、雷が鳴り響いています。
今までパパ!パパ!遊ぼう!!!とうるさかったのに目も合わせなくなった息子を部屋に呼び、ピョートルは「見たんだろう?」と声を掛けます。
そうさ!見たさ!と激昂する息子は、若さゆえ刃物持ち出しちゃうんですねー。定番ですねー。父はいやいや落ち着けと言うも落ち着けるはずもなく、もみ合ううちに切り付けられピョートルは腕から出血。致命傷ではないものの結構な大けが。そこで若者はようやく正気になります。

おそらく大好きだったお父さんの裏の顔を知ったことで「大人って汚い!」「お父さんなんか嫌いだ!」モードになっていたと思いますが、自分がつけた傷を「私が自分でやったんだ」と言い鷹揚に笑う父に、息子は言葉を失います。
父は確かに思っていたような理想の人物ではなかった、でもその優しさ、おおらかさがすべて嘘でもなかったことに気付いた。大きく見えた親は決して神様ではなく、自分と同じ人間であることを理解するという青春の大事な一儀式を済ませたんですね。

ちなみに同じころ、オリガはピョートルとジナイーダが関係を持っていてしかもお金をバンッバン渡していることを知り、怒りに震え、一家でこの別荘地から立ち去ることを決めました。
オリガは夫の所業に本当に心を痛め、そして怒っているのですが、彼女は父に憧れる息子に決して夫の罪を教えませんでした。
華雅りりか演じるシャルロッタなんかはそれが歯がゆくて仕方ないわけですが(だからウラジミールに話しちゃう)、オリガは決してそれをしてはいけないと知ってるんですね。「あなたも大人になればわかるわよ」と諭します。

ピョートルのやっていることは本当にひどいけれども、きっと彼にとって不貞は息継ぎのようなもので、オリガとの生活を続ける限りせずには生きていられないものだろうし(演じているのがあきらだからちょっと甘すぎる見方かも)、オリガはオリガで名家の跡取り娘として守りたいルール、踏み外せない道というものがあるのだろうし、ああこの夫婦……と夫婦関係について色々考えてしまいました。

出立の日、最後に森を散歩していたウラジミールはジナイーダと出会います。
「そういえば、出会った日に話した、花言葉を覚えてる?」
「……初恋」
ふたりはキスをして、幕。


色々はしょっているにも関わらず、長すぎですね…すみません!
しかも私が一回見ただけものを脳内再構成したのでセリフや流れが違っている可能性があります。ごめんなさい。

肝の部分に改変が加えられていましたが、その分宝塚らしくなり、まさに青春の物語になっていました。
ただ原作の粗筋が魅力的だったので、そのままでも見てみたかった気がします。
でもそうするとラストシーンがありえなかったわけで。うーん。
2人が通り過ぎてしまった初恋を確認するラストシーン、とても好きなのです。


そういえば冒頭は大人になった柚子カレーが別荘を手放すところなんですが、あれはなくても良かったですね。終わりでそこ(大人になったところ)まで行かないし。
使用人と信頼関係が築けていること、そしてピョートルとの関係がその後良好だったということが分かるからまったく無意味ではないのだろうけど。


セットが松井るみさんらしく、とても面白かったのですが、私のセンスのなさで「天井からおおきなワカメが何本も垂れ下がっている」と一度思いついてしまい、それからどうもその印象が拭えませんでした……。
そのワカメが柱になり、白樺林にもなるんです。わかめに見えたけど素敵でした。
後ろから赤い光が当てられているときはすごくかっこよかった!!装置と照明がこの作品の雰囲気づくりに貢献していました。

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ウラジミール:柚香光
まず最初のはじけるように駆け込んでくる様が印象的。
若さゆえに感情の起伏が激しくて、初主演に全力で臨んでいるのだなというのが伝わって、全編通してとてもいいなぁと思いました。

私がとってもニヤニヤしたのは、マイティがきらりにキス(ガチなやつ)をしているときの「ちょ!!!!!!!!」という表情と、その後についついりりかちゃん演じるシャルロッタにキスしちゃうところですね。
ああいう八つ当たり少女マンガであるわーよくあるわーと思って笑っちゃいました。「サイテー!」って言われてましたねw

光くんは声が少し不明瞭?濁りがちなところがあって、歌も得意な方ではないようですが、今回はあまり気になりませんでした。
きらりとの連弾や、ダンスのシーンなどとても美しかったです。


ジナイーダ:華耀きらり
今回特に印象的だったのは、きらり演じるジナイーダ。
彼女は柚子カレーやりりか演じるシャルロッタほど子どもではなく、また五峰ママや一花ママほどは大人ではありません。
だから、嫌々だけど晩さん会には行く。おそらくどんな事態になるかは分かっていたけど、親のために自分のために行かないといけないと思ったから。でも母の詐欺行為を積極的に助けるほど割り切っているわけではないので、晩さん会の間ずっと感情を殺して能面のような顔で座り続けているのです。
その姿が美しくて……忘れられません。
彼女の周りには取り巻きがいて、また声を掛けてくる男たちもたくさんいるのに、誰一人本当の彼女を愛してはいないことが切なくてしょうがなかったですね。

ただ、今回違和感があったのは何度も何度も「ファム・ファタール」というセリフがあったこと。しかも取り巻きが言うならまだわかるのですが、彼女が実は悪女でも何でもないと知っているピョートルが言うんですね。
と、なると「本人の意思に関わらず男を引き寄せてしまう悪い女」という意味なんでしょうかね。
今回きらりが演じたことは本当に良かったし見られて嬉しかったけれど、本当に脚本が要求するジナイーダという役はもっと弱弱しい、触れたら堕ちてしまいそうな色気を持った女優ではないかな、と思いました。檀れいとか、現役ならばみゆちゃん?(弱弱しい娘役って意外にいないw)
そうすると「本人の意思には関わらず、男を惑わせてしまう女」感が出て、ファム・ファタールという言葉に違和感がなかったかもしれません。
でもきらりのジナイーダ、大好きです。


ピョートル:瀬戸かずや
さして年齢の変わらない柚香くんの父親役。
ポスターの段階でヒゲがないことにびっくりしました。舞台もそのままヒゲなしでしたが、私には問題なく父親に見えました。
今回はかなり性的にアクティブな役なのですが、あきら自身に品があるので、全然下品には見えませんでした。美しいというのは大事なことだ!ピョートルは演じる人次第では本当にとんでもないエロおやじですからね!!でもそれだけではない、いいお役だったと思います。
フィナーレではセンターで踊る場面もあり、とても素敵でした。
しかし、そろそろ真ん中で輝くあきらが見たい!PちゃんとW主演とか、何かできませんかね。新人公演主演もしているし、何でもできるからって便利に使われてこのまま脇に、というのは勿体なさすぎます。


ザセーキナ公爵夫人:五峰 亜季
最高に俗っぽくていやらしくて素晴らしかったです。


ヴォンファーチ:悠真 倫
ザセーキナ公爵家の執事。白髪の鬘にヒゲ、最初誰かと思いましたw


オリガ:桜 一花
顔が小さくて、かなり大きなパフスリーブのドレスを着ていたので(あのパフスリーブに一花ちゃんの顔が2つは入るな……)と思ってみてました。
威厳と愛のある奥様でした。お話のあと、旦那様とはどうなるんでしょうねぇ……。


シャルロッタ:華雅 りりか
ウラジミールが好きで好きで、あからさまにアタックしている女の子。残念ながらウラジミールには鬱陶しがられています。鬱陶しがられるのもちょっとわかっちゃうようなキャラ設定で、真面目でまっすぐ(過ぎる)ところが表現されていました。結構感情移入してみていたので「そ、そんなに押さない方が……!」と思ったりしましたがw


ベロヴゾーロフ:水美 舞斗
セクシーでした!
取り巻きの中でも、彼はかなり本気でジナイーダを好きだったのでは。キスシーン美しかったです。
彼女は若さゆえの張りがあってピッチピチなので、それが落ちるころにはどれだけいい男役になることでしょう。楽しみです。


ルージン:天真 みちる/マレイフスキー:和海 しょう他
取り巻き達。
タソがルージンとしてクレオパトラを演じるシーンがあるのですが、爆笑ですよ!白塗りのまましばらく出演しているのでおかしくておかしくて。
和海くんが美声を聴かせてくれるシーンがあって嬉しかった。


ヴェロニカ:鞠花 ゆめ
オリガにとって腹心とも言えるメイド長。あきらの浮気とかも調べているようです。有能!
私、彼女の安定感が大好きです。


アリョーナ:春花 きらら/ナターリヤ:美蘭 レンナ/タマラ:乙羽 映見/エレーナ:春妃 うらら他
ウラジミールさんのおうちの美しすぎるメイドちゃんたち。
いや、ピョートルはよく手を出さずに我慢しましたね、と思っちゃう布陣でした。特に目を引いたのは春花きららちゃん。華やかで可愛かったです。





6月26日11時公演

■主演・・・柚香 光

バウ・ミュージカル
『ノクターン -遠い夏の日の記憶-』~ツルゲーネフ作「初恋」より~
脚本・演出/原田 諒

[解 説]
 19世紀ロシアを代表する文豪イワン・ツルゲーネフが、生涯で最も愛したと言われる小説「初恋」のミュージカル化。若き主人公ウラジミールは、モスクワ郊外の別荘地で運命の恋に落ちる。だが、それは禁断の恋であった……。同じ女性を愛してしまった親子の葛藤と、自由奔放で蠱惑的な年上の女性との恋に身を焦がすウラジミールの姿を、詩情豊かに謳い上げます。没落の翳りを見せるロシアの貴族社会を背景に、切なくも美しい思春期の光と影をドラマティックに描き出した作品です。