刑事手続きの基礎「再審手続き」
1 本日、えん罪の可能性があるとされる袴田事件の再審決定が静岡地裁でなされた。DNA型鑑定から被告人の着衣とされたシャツ5点の血痕が被告人ないし被害者のものでない可能性があるなどを理由に再審決定をしたと同時に死刑の執行と拘置の停止の決定をくだし、被告人は同日、東京拘置所から釈放されている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140327-00000033-mai-soci
本決定は、足利事件、東電OL事件などの事例のようにDNA型鑑定が再び再審の扉を開けたものであり、今後の確定死刑事件の見直し、再審の申し立ての増加をもたらす契機となるかもしれない。そこで、これを機に再審手続きの基礎知識を確認してみたい。
2 刑事裁判の判決が確定すると(上訴期間の経過、上訴権の放棄など)、被告人は上訴で有罪判決の裁判を争えなくなる。しかし、例外的に上訴ができない場合でも、一定の場合に誤判から被告人を救済するため(「無辜の救済」)、認められる手続きが現行刑訴法上の再審である(法435条以下)。すなわち、再審制度は、憲法39条の趣旨を受けた被告人の利益のための再審制度=利益再審であり、被告人の不利益再審(例えば無罪判決を覆す再審)は認められていない(田宮裕・刑事訴訟法新版503頁参照。これとは逆に上訴の場合は、被告人に不利益な検察官上訴が認められている。)。
3 再審理由(435条)は①原判決の証拠が偽証拠の場合(同1ないし5号)、②原判決の裁判官、捜査官が職務上の犯罪を行っていた場合(同7号)、③無罪などを言い渡すべき「明らかな証拠」を「新たに発見した場合」である(同6号)。前者を証拠の明白性、後者を証拠の新規性の問題という。証拠の明白性は、新証拠と他の証拠を総合して評価し、確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるかを吟味して判断される(白鳥決定 最決昭和50・5・20)。
4 再審請求は、原判決をした裁判所が管轄し(438条)、請求権者は、有罪の判決を受けた者及びその法定代理人のほか本人の死亡または心神喪失の場合は、配偶者、直系親族、兄弟姉妹であり、上訴と異なり被告人が死亡していても再審請求は可能である。また、検察官も公益の代表者として再審請求権者である(439条)。再審請求に時期的制限はない。刑事補償等の利益があるからである。
再審請求がなされると検察官は請求の裁判が終わるまで刑の執行を停止することができるところ(442条)、死刑の執行は通常停止している。
再審請求に理由があるときは、再審開始決定がなされる(448条1項)。理由がなければ却下され、また同一理由で再請求することはできない(447条)。開始決定の場合、裁判所は刑の執行を停止することができる(448条2項)。問題は死刑の場合、執行前は「拘置」(刑法11条2項)されており拘置は刑でないので、その停止を認める直接の明文がない点である。そのため、裁判所による拘置停止を否定する見解もあるが(拘置停止否定説 松尾ほか条解刑事訴訟法1147頁以下、熊本地裁八代支部昭和56・6・5)、肯定する見解も有力である(448条2項準用説・拘置停止肯定説 田宮・前掲510頁参照、仙台地裁昭和59・3・6[松山事件])。本件静岡地裁も拘置停止肯定説に立っている。自由刑の停止の場合との均衡及び「拘置」は死刑執行のためになされる前置手続き(付随処分)であるから、いわば大は小を兼ねる意味で448条2項の準用ないし拡張解釈により拘置停止を認めるのが妥当である。
再審開始決定が即時抗告などにより変更されず、確定すると449条の場合を除き、その審級に従って、さらに審判がなされる(451条)。これを再審公判という。この再審公判の再審判決により、原確定判決は失効する(その時期につき、通説は再審判決確定時説をとるが、前述した拘置停止の論点とからみ争いがある。田宮・前掲510頁参照)。