子どもは「心の課題」をどう乗り越える?―エリクソンの発達理論で読み解く成長のステップ―子どもの成長を見ていると、身体の発達と同じくらい「心の発達」も気になるものです。「自己主張が強くなってきた」「急に恥ずかしがり屋になる」「周りを気にするようになった」など、年齢によって変化する“心の揺れ”は、実は偶然ではありません。発達心理学者エリクソンは、人の一生を8つの段階に分け、それぞれの時期に特有の「心理社会的課題」があると考えました。この記事では、その中から主に乳児期〜青年期までの6段階に焦点を当て、子どもの心の成長をどのように支えられるかを、できるだけわかりやすくまとめます。専門的な内容ではありますが、ここでは一般向けに整理し、個人を特定しない一般論として記述しています。■エリクソン理論とは?エリクソンは、発達を「身体的に大きくなること」だけでなく、社会の中で“自分として生きられるようになるプロセス”と捉えました。そのため、各段階には必ず、・プラスに働く課題(例:信頼、主体性、自立、勤勉、同一性など)・マイナスに働く課題(例:不信、恥・疑惑、罪悪感、劣等感、同一性の拡散など)の両面があります。“どちらか一方だけが良い”という話ではなく、その時期の心理的な揺れをどう経験し、次の段階に進むための力に変えていくかという考え方が特徴です。■第1段階:乳児期(0〜1歳)「基本的信頼vs基本的不信」この時期の中心テーマは「世界は安全か?」「自分は守られているか?」という感覚です。●信頼が育つと…・泣いたら大人が来てくれる・抱いてもらえる・不快が取り除かれるこうした経験の積み重ねが「世界は信じていい」という感覚につながり、安心して探索できるようになります。●不信が強くなると…・周囲に対して過度に警戒する・他者に頼ることが難しくなるというように、「安心して委ねること」が難しくなることがあります。●サポートのポイント・泣きやサインに応じて、大人が一貫して反応する・安全な環境で、興味を持ったものに触れさせる・「だめ!」よりも「大丈夫だよ」と受容的に関わる「安心していい」という土台ができると、次の段階で必要になる自立へ踏み出しやすくなります。■第2段階:幼児前期(1〜3歳)「自律性vs恥・疑惑」自分でやりたい!という気持ちが急激に強くなる時期です。●自律性が育つと…・自分で決めたい・自分で選びたい・少しずつ身の回りのことをやろうとするという「自分でやってみたい気持ち」が伸びます。●恥・疑惑が強くなると…・失敗を怖がってやらなくなる・大人の顔色をうかがう・「どうせできない」と感じやすいなど、挑戦する気持ちが弱まりやすくなります。●サポートのポイント・完成よりも「やってみようとする気持ち」を褒める・失敗しても「大丈夫だよ」と声をかける・自分で選べる小さな選択肢を用意する(服・遊び・食事の順番など)「自分でできた!」の積み重ねは、行動力や自己肯定感につながります。■第3段階:幼児後期(3〜6歳)「自主性vs罪悪感」ごっこ遊びや想像遊びが発達し、「こうしてみたい!」「自分からやってみよう!」という意欲が大きく伸びる時期です。●自主性が育つと…・自分発のアイデアが増える・友だちとの遊びの中で役割を決められる・目標に向かって行動できるという“主体的な行動”が見られるようになります。●罪悪感が強くなると…・「自分が悪いことをした」と思い込みやすい・行動をためらいやすい・注意されると必要以上に落ち込むという形で、意欲が育ちにくくなることもあります。●サポートのポイント・行動そのものではなく「気持ち」を受け止める・「考えたことは素敵だね」とアイデアを評価する・うまくいかなかったときも、「次どうしようか」を一緒に考えるこの時期の「やってみたい」は、人格の根っこになる大切なエネルギーです。■第4段階:学童期(6〜12歳)「勤勉性vs劣等感」学校生活が中心になり、評価される場面が増える時期です。●勤勉性が育つと…・コツコツ頑張れる・課題に取り組む持続力がつく・新しい知識・技能への興味が膨らむという社会的な力が大きく伸びます。●劣等感が強くなると…・他の子と比べて落ち込みやすい・挑戦を避ける・評価に過敏になるという、自己評価の不安定さにつながることがあります。●サポートのポイント・結果より「プロセス」を丁寧に褒める・その子のペースに合わせた目標設定・得意なことを見つけて、成功体験を積ませる「自分はできる」という感覚は、思春期以降の自己形成の大きな支えになります。■第5段階:青年期(12〜18歳)「同一性(アイデンティティ)vs同一性の拡散」“自分は何者か”を探し始める時期です。●同一性が育つと…・自分の価値観が見えてくる・やりたいこと・好きなことを見つけやすくなる・対人関係を自分らしく築けるという「自己の確立」が進みます。●同一性の拡散が強くなると…・他者の評価に過度に振り回される・将来のイメージがつかみにくい・自分が何をしたいのか分からなくなるなど、迷いが深まることがあります。●サポートのポイント・「こうあるべき」ではなく「あなたはどう思う?」を大切にする・否定しすぎず、考える材料を提供する・小さな成功体験を積み重ね、自己理解を助ける思春期特有の揺れは、決して悪いものではなく、自分を探すための自然なプロセスです。■エリクソン理論をどう活かす?①子どもの反応には、その時期なりの“意味”があるエリクソン理論の良いところは、行動には、その時期の課題が反映されるという視点です。「わがまま」「反抗」「落ち込みがち」と見える行動も、実はその年齢にとって自然な心理的テーマから生じることがあります。②「今はこの課題を経験している時期」と捉える子どもの行動に困ったとき、「できていない」ではなく「この段階の課題に取り組んでいる途中なんだ」と理解するだけで、大人の関わり方が柔らかくなります。③大人の関わり方が次の発達段階につながるエリクソンのモデルでは、どの段階も「大人との関わり」が重要です。・受け止められる経験・試すことを許される経験・成功と失敗を一緒に味わう経験これらは次の段階の基礎になります。■おわりに:子どもの“心の地図”を持つということ子どもの心の発達は、外から見えにくいけれど確実に進んでいます。エリクソンの理論は、「いま、この子はどんな心理的課題を経験しているのか?」と理解するための地図のようなものです。・信頼を育てる時期・自立を試す時期・自分で考え始める時期・他者と比較して悩む時期・自分自身を探す時期どの段階も、その子なりのペースで進んでいきます。大人が「この時期にはこういう揺れがある」と知っているだけで、子どもの行動に対する見方や寄り添い方が変わるはずです。この記事が、子どもの心の成長をあたたかく見守るためのヒントになれば幸いです。