このお盆休み(世間様の)、弟から

もし暇でなんもすることなかったら12~14日

母の顔を見に来てくれないかと言われた。

ちょうど13日にそちらでライブが控えてたので

実家に前泊することに。

 

しかし到着してみると、玄関の灯りはともっているものの

呼び鈴にも電話にも反応がない。

しかも玄関わきには宅配弁当が中身もそのまま残っている。

今はもう19時。

玄関横の閉まっているシャッターを

けたたましい音を立てて叩きながら叫んでみても応答なし。

これで不安にならなければどうかしている。

 

姉に母を連れ出していないか聞くもそんなことはなく

弟に連絡すると、出先から嫁を派遣して鍵を持たせると。

駅まで鍵を受け取りに行き取って返して

隣の市から召還した姉と共に実家に乗り込む。

 

二人とも予想される様々なことに対応すべく心の準備をし

真っ暗なダイニング、リビング、トイレ、と

電気を灯しながら進む。

そのたびに目に飛び込んでくる景色に母の姿がないことを祈りながら。

そして2階の母の部屋で、「お母さん!?」と呼びかけると

弱弱しい声で「はぁ?」と返事が聞こえた。そこに母が、いた。

 

いろんな感情が吹き出しそうになった。とにかく生きててくれた。

もうそれだけでいい。

いつも母と会った日の別れ際には、

「これが最後かもしれない」と思いながらハグをする。

ついさっきまで「あれが最後になってしまうのか?」と

思っていたことがくつがえされた。どれだけ嬉しかったことか。

 

締め切った部屋でエアコンも点けず、汗だくなのに寒がる母。

いつから寝ていたのか、いつから水分を摂っていなかったのか

聞いてもわからない。

買ってきたスポーツドリンク360ccがみるみるうちになくなった。

食欲もあるようで、少し口にできた。

まだ脱水症状にはなっていなかったようで安心した。

 

姉が来てくれて本当によかった。私一人ではオロオロしてしまう。

久しぶりに3人で顔を見合わせ、古い家族の時間が流れる。

 

パジャマに着替えさせた姉が「足の爪が伸びててひっかかる」と言うので

爪切りで母の足の爪を切った。

 

静かな部屋に響く爪切りの乾いた音すら愛おしい。

母の爪なんてまじまじ見たこともなければ切ったこともなかった。

他人の爪を切るのは意外と難しい。

(ゴメン見栄張った。今や老眼なので自分の足の爪切るのも難しいわ)

自分の子供たちが小さかった頃以来だし

しかも大人の足の爪はとても硬く、変形もある。

それを一つずつ指先で触れて確認しながら慎重に切る。

パチン、バチン、パチン…。その音を聞くたびにありがたさが押し寄せた。

 

そして、母と一緒に眠る。

母は昔から豪快な往復いびきなので、先に寝ないとなかなか寝付けない。

だが、興奮状態だった私はやはり夜中になっても寝付けなかった。

闇の中に、昔と比べると随分静かな母のいびきが聞こえる。

「ああ、生きてるんだ」としみじみ嬉しい。

いびきは息吹なんだ。

 

ライブの間はまた姉に来てもらい、終了後にバトンタッチ。

母の就寝時間まで一緒にいた。

 

弟夫婦に母を託すことのむずかしさ。

第一子長女と、末子長男の泥沼の闘争。

中間管理職(私)の通訳業務はいつまで続くのか(;´∀`)。

まあこれも母が生きていてくれる証と思えばいい。

実家を出るとき、また母とハグをした。

「どうか次もありますように」と祈りながら。

 

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ライブの幕間に、人生の先輩メンバーが洩らした

「一番身近でがんばってる奴が悪く言われるんだよなぁ…」

という一言に胸が押しつぶされる思いがした。

弟の声だと思って刻み付けよう。