ビング・クロスビーが好き過ぎて、

彼の出ている映画を可能な限りアマプラで追っかけしている。

 

これはビングの初テクニカラー作品。

ビングは、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に蓄音機のセールスするためにやって来たアメリカ人を軽妙に演じている。

 

ラブコメとしては古典的で凡庸だが、歴史ヲタクとしては

オーストリアハプスブルク帝国の実質的最後の皇帝、フランツ・ヨーゼフ1世を

ミュージカル「エリザベート」などとは別の視点から描いているのがとても興味深かった。

新絶対主義を貫きながら、機械文明を最後まで拒絶し、

自由主義を掲げる息子には対立したまま不名誉な死に方をされ、

皇位継承者の甥(サラエボ事件で暗殺され第1次世界大戦の引き金になった)からも、

溺愛した孫娘(「赤い皇女エリーザベト」)からも、

貴賤結婚(身分違いの結婚)で悩まされ、身内の不幸が重なりまくった皇帝。

 

その皇帝に、ジョーン・フォンティーン演じる伯爵夫人(未亡人)との結婚(貴賤結婚)の

許しを請うシーン。この数分だけで私は大満足。

 

彼の歩いてきたみちのりを知ったうえで二人の対話を聞くと、

さらっと彼の重すぎる人生を語っていることが味わえる。これは歴ヲタの特権。


やがて終わりを迎える帝国主義の権化である皇帝が、

自由主義の権化たるアメリカ人(それも皇帝の嫌う機械のセールスマン)と

来るべき時代を語っているシーンだけでも十分見どころがあった。
(もちろんファンタジーなんだけど)

 

この時の皇帝のセリフがいちいち重厚なのに洒脱でステキ。

 

エリザベート亡き後、皇帝としての職務を死の間際まで全うし、

「国父」と呼ばれた彼の内側を好々爺として覗かせてくれたようでとても楽しかった。

 

特に「邪魔なら髭剃ればいいじゃん」というビングに

「それはできん。オーストリア中がタイヘンなことになる。

コインも切手も何もかも作り替えねばならん」っていう冒頭のくだりが好き。

笑えるけどそのとおりだよね。バービー人形と同じだ(笑)。


ビングの歌に関しては言うまでもない。どんな曲も彼が歌うと名曲になってしまう。

 

オープニング・エンディングに使用され、タイトルにもなっている『皇帝円舞曲』は、

ことあるごとに皇帝に曲を送ったヨハン・シュトラウス2世の3大ワルツの一つだが

元々は「Hand in Hand(手に手を取って)」というタイトルだったらしい。

それはドイツ皇帝とオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の親善を意味している。

 

1889年ベルリンに新しく開場するコンサートホールの

こけら落としのために依頼されたとのことだが…

この年は、マイヤーリンク事件のあった年。

皇太子である息子ルドルフが心中事件を起こした年でもある。

皇帝はとても踊る気分じゃなかったことだろう。

 

ちなみにフランツ・ヨーゼフは、あまり芸術に関心がなかったようだが

気の毒になるほど皇帝を讃えて作曲し続けたヨハン・シュトラウス2世を

宮廷音楽監督に推す議案に2度もダメ出ししてるのは

シュトラウス親子が元は革命運動家だったことによるらしい。

ヨハン父は宮廷音楽監督でありながら同じく革命派だったけど

先鋭化していく事に違和感を覚え、変節していく。

(貴族が平民に路上で吊るし首にされてコレジャナイ感がピークに(;゚Д゚))

 

そしてヨハン父が「革命からウィーンを守った」と言われるようになった曲

『ラデツキー行進曲』のヨーゼフ・ラデツキー将軍(これは知らなかった)は

若きフランツ・ヨーゼフに軍隊を学ばせ

未来の皇帝の「軍隊ヲタク」(ただし才能はナカッタ…)に磨きをかけたと思われる。

 

宮廷のしきたりを厳しく守った皇帝が唯一守らなかったのがコスチューム。

通常皇帝のユニフォーム?は金羊毛騎士団ローブなのに

ミリヲタの彼は常に軍服を着用している(笑)。

(だが才能はナカッタ…出る戦ことごとく負け続け)

皇帝のコスプレ…なんかカワイイネ。