入院中にイヤなことといえば

「針」

ことあるごとに身体に突き立てられるのは
特殊な趣味がある人以外にとって
苦痛以外の何ものでもない。

一日に何本もの点滴を受け
さらに採血され

両腕はもう10日の間に穴だらけ。

もちろんこうして手厚い治療を受けられるのは
世界中でほんの一握りの人間であり
感謝はしてるのだが、如何ともしがたいのが痛さ。


しかし、医療技術も日進月歩、目覚ましいものがあるのです。

私が娘を帝王切開で産んだのが31年前。
当時は一つの点滴に対して針一本。

だから、多い時には両腕に二本差し。計4本。
なんてこともあって、当然身動きできない。

ところが、現在は何と
点滴のチューブに枝が付けられるのだ!

さらに一度刺された針は数日つけっぱなにすることが出来る!

ハーネスのような部分で付け替えて
次々と点滴を変えることが可能な上に
そこから鉄剤などを注射することもできる優れものだ。

しばらく使わないときは、ヘパリンで
血液が固まらないよう処置を行う。
目を見張る進歩だ。



だが、ここにも技術のパラドックスは存在し

つまり、看護師の経験値が激減するため

「お下手」な看護師を量産することになってしまうのである。



私が40℃から38℃の高熱にうなされていた頃は
生理食塩水の点滴も豊富で、おそらく水分がしっかりあったのだろう。

それが、回復傾向になり、経口で水が取れるようになると
点滴ほどの潤いがなくなったのだと思われるが…(ベテラン曰く)

そのあたりから、「失敗」の大量生産になった。

一人2回は失敗なさる。
しかもハンパなく痛い。


「ま、まだやるんかっ!?」と
倒れそうになってると(最初から倒れてるけど)

「すみませんっ! 先輩呼んできますっ!」

私も彼女たちも泣きそうだ。
でも、こちらから
「チェンジ!次の人プリーズ!」
を告げるのはあまりにも酷で出来なかった。


そして、失敗する子たち(まだ若い子ばかり)は決まって
「血管痛が出てます」とか「血管が逃げる」と口にするのだ。
点滴針だけでなく、落ちてくる点滴すらも痛い。
「時期的に血管痛が出る頃です」などとも言われた。

しかし、31年前、ある事情で結局入院が1か月に及んだ時でも
そんなものはなかったし「血管痛」なんて聞きもしなかったぞ。
(まあ今と違って若かったけどさ)


その証拠に、そのフォローに来たベテランの看護師はみな
「一瞬」でキメていくのである。

そして、点滴が入ってくるのも冷たいだけで痛くもなんともないのだ。

何度も何度も刺されて感じたことは
「角度が違う」ということだ。

針の進入角度が違うのだ。

新人は浅い角度で入ってくる。
ベテランはもう少し深くグサッとくる。

そんなことを新人さんに話した。

何が怖いってこれが彼女たちのトラウマになったりしたら
悔んでも悔やみきれないじゃないか。
今や貴重な人材なのだから。

もっと自分本位に考えれば「指名」したいぐらいだったけど
それやったらもう彼女たちのチャンスはさらに減り
さらにヘタクソになってしまうんだもの。

恐怖と痛みとの戦いだったよー。いやはや患者も楽じゃない。

昔はブタさんの皮で練習したらしいが
今はどうなんだろうね。


とにかく便利は人の技術を殺すってことは
どの分野にも言えることだと
今回、改めて思った次第デス~。