「義を見てせざるは勇なきなり」


この言葉が化石になってきましたねー。



それを行動に移したばかりに命を失う人たちがどんどん増えてる。

ほんの少しの怒りで人を殺せる人間が増えてきたみたいだ。

何がこうも沸点を低くしているんだろうか。


親も子供にこの言葉を教えることをしぶるのは仕方がないだろう。

「悪い人や変な人を見ても注意せずに見ないふりしなさい」

と教えるしかないだろう。と、思う。


もっともだと思う。かわいい我が子に何かあってはたまらないもの。


でも!


ひどい目に遭ってる人を見て見ぬふりをするのは

はたして「楽」だろうか?


人の心の中には、自分でも知らない人が一名住んでいて


時々「それは間違っている!」とか

「こうすべきでしょ!」とか

正論をふっかけてきませんか?


こいつがまたやたらとうるさい。


こいつが叫びだすと、自分もそれにいちいち言い訳しなくちゃいけない。

自分を正当化するためにありとあらゆる言い訳を編み出す、繰り出す。


うまいことこいつを打ち負かすことができればいいんだが

人間そんなに強くない。時にこいつにそそのかされてしまうこともある。





さて、小学四年にしていじめっ子から解放された私は

はじめて学校生活を楽しんでいた。


そんなある日、教室で男子が女子をいじめているのを目撃した。

立ち去ろうとした。


いじめられてる子が昨日までの自分と重なる。見ているのがとっても辛い。

誰かあの時、「やめなよ」って言ってくれる人がいたらよかったのに!


そしてその誰かになってしまった。


言って欲しかった一言を自分が言ってしまった。

どうなるかわかっていたのに。

ええかっこうしい。


めでたくメンバーチェンジ。

いじめられてた彼女はどこかへ行ってしまい

その日から私がターゲットに。



でもいじめには慣れてたので、自分がいじめられてる方がずっと楽だった。

そもそも男子のいじめなんて、身体的なものばっかりで

言葉のいじめなんて女子に比べたらまったく語彙がお粗末で、

いじめられてる気にもならなかった。


マジックインキ(懐かしい商品名だな)の容器二本で

指を両側からつぶされて「痛いだろう」「痛いっていえよ」

みたいなことがよくあったな。

男子二人がかりで。


当の彼女は見て見ぬふり。

友達と楽しそうにしてる。

そうなればいいなと思ってやったことだから、自己満してればいいのだ。


男子は飽きっぽい。そのうちにいじめるのをやめた。

その頃になって、当の彼女は

「ごめんね」と言ってきた。

「仕方ないよ」と私。


まあ当然それだけ。彼女と仲良くなれるわけでもない。好きにもなれない。

自分の何かにそそのかされた自分のせいだしね。

別に後悔も何もない。すっきりしたもんだ。

長年のいじめられキャリアに感謝したよ。




でも、私は学習能力がないの。


中学一年で最初に仲良しになった友達と

二年も同じクラスになって喜んでいた四月。


いつからだったか何が原因だったか思い出せないけど

突然彼女がクラスから無視されることに。

当時は「ハバ」とか「ハブケ」って言った。


私は構わず彼女とつるむ。

すると、当然のように私もハバに。


でもね、一人じゃなくて二人ハブケになると

それはもう「派閥」なの。

周りが全て敵という中で今まで以上に強い絆で結ばれた私たち。


と、思ってたのは私だけ?




三年になってクラスが別々になると

彼女は廊下で会っても、私を無視するようになった。



何がなんだかわからない当時の私。


大人になってからわかった。

「辛い過去を乗り越えた人はその当時を知ってる人を煙たく感じる」んだね。


まあ新しい友達できて楽しそうだからいいか。

ちょっと寂しいけど私もちゃんと新しい友達はできたし…


時は流れて、成人式のあたりで、地元を遠く離れた彼女から手紙


「あの時はごめんね」


ずっと彼女の心の中でこの言葉がもやもやしてたんだろうか?

それはハブケより辛くなかっただろうかと、思った。





自分の身を災難から守るために、心の中の誰かをねじ伏せる。

身体は傷つかないけれど、心はくたくたにならないだろうか。


前者しか選ばせない大人は、何を守れて、何を守れていないのか


選ばせないよりそもそも、

保身する大人の背中がもっと雄弁に語っているよね。



勇ある人が死んで、美談で、はい、おしまい。

は、大人だけにしてほしい。


子供たちには何かを見てほしい。その人がなぜそんな行動をとったのか。


大津の彼を助けることはできなかったけれど

今、やっとアンケートで声をあげた子供達、

「あんなこと書かなきゃよかった」と怯えている子もいるはず。


取り調べ官は、どうか彼らの芽を摘み取らないでほしい。

新芽は瑞々しく、美しくて、そして傷つきやすい。