タイトルだけ見たら浜省(浜田省吾)の歌のタイトルみたいですが違います。
今年も鈴鹿8耐が行われ圧倒的な強さでホンダワークスが優勝しました。
その煌びやかなスポットライトを浴びる表彰式の後の花火を静かに見上げるチームがありました。
山科カワサキ ケンレーシング
ご存知の方も多いと思います、私が携わっているチームです。
今年はお手伝いに行きませんでしたが、仕事しながら常に様子はSNSなどでチェックしていました。
少し話はズレますが。
今の鈴鹿8耐は昔のようにエントリーすれば参加出来る訳ではありません。
前年度の8耐の成績、またはその年に行われる鈴鹿8耐トライアウトレース(選抜レース)で上位に入らないと参加の資格は得られません。
また、鈴鹿8耐を走れるのは国際A級ライセンスを持ったライダーしか走れません。
国際A級の下は国内ライセンスとなります。
この国内ライセンスだけが出場出来るレースがあり、(別の名をナショナルクラス)そのレースで年間通して必要なポイントを獲得すると翌年に国際A級となります。
コースレコードを持っていたり、年間チャンピオンになったり常に表彰台に上がる成績を残したり、ハッキリ言って国際A級は速い人たちなのです。
そんな速いライダーがそれぞれのチームでペアライダー(2人若しくは3人)で8時間走りきるのが「鈴鹿8耐」です。
話を戻します。
BS12でライブ中継されましたが、録画を見たのですが国際映像だったのと、実況と映像が合ってなくて様子が分からなかった所も多々ありましたね。
決勝の日の様子をお送りします。
当日何が起きたのか?
内容は山科カワサキ公式Twitter(現X)より時系列と写真、文、少し私の文も織り交ぜてお伝えします。
10:40
サイディングラップが開始され各ライダーがコースインし、コースをぐるっと走り予選で決まった順位の場所のグリッドに付きスタート進行が行われる。
右から岡田秀之選手、可部谷雄矢選手、川口篤史選手
スタート前の緊張しそうな場面でもカメラ向けられるとついふざける余裕を見せる可部谷選手。
チームと選手紹介が行われいよいよスタートの時間が迫る
予選の位置から一度コースを走りもう一度予選の位置に戻る。
そのライダーを待つスタッフ。
彼らはル・マン式スタートの時マシンを支える役目。
レースマシンはサイドスタンドが付いてないので、マシンを後ろで支えないといけません。
こんなふうに。
11:30
いよいよ8時間のレースがスタート。
スタートは少しもたついたものの、周りも出遅れた為、少し順位を上げれた。
その後予選順位を上回る35位付近で順調に周回を重ねる可部谷選手だったが…。
12:08
モニターに一瞬転倒車両が映る。
実況アナウンサーが「おー!1台転倒てしいる!転倒している!これはぁ!?一瞬オレンジと緑に見えました! オレンジと緑と言えばあのチームですよね…!」
場内実況でピットがザワつく。
タイミングモニターを凝視するが可部谷がセンター3を通過していない…
12:09
スタートから39分経過
モニターを眺めながら続報を待っていたが、その後トップグループを走るチームが転倒し、場内実況はそちらを取り上げる。
暫くしてやはり可部谷が2輪シケインで転倒しているのが確認された。
2輪シケインならまだ軽傷か?
ピット内は比較的落ち着いた様子。だがなかなか可部谷が帰ってこない。
ピット内は情報が無く、オフィシャルも情報確認中だった為、SNSで情報収集。
するとライダーとマシンをレッカーに載せている写真を見つけた。
12:30
オフィシャルより、今レッカーが出発しメディカルの横のにこのあと到着します。
炎天下の灼熱の中、ライダーは転倒後20分以上革つなぎを着たまま。 体調が心配される。
ピットからマシンが到着する場所までは数百メートルあるが、ピット作業を行う学生達と共にドリンクなどを持ってごった返すピット裏を走りライダーを迎えに行く。
幸い怪我もなく熱中症などの症状もなく無事にピットに戻りクールダウンした。
13:00
その頃ピットではマシンの修復作業が行われていた。
マシンは転倒の衝撃でオイル系統が破損しオイル漏れを起こしていた。その為ライダーは自走で戻ってくる事が出来なかった。慌ててエンジンを掛けて走行しだしたらエンジンがブローしていた可能性があるので、ライダーの冷静な判断により破損を最小限に抑えることが出来た。
しかし戻ってくるまでに時間が掛かり、なおかつ修理作業時間により完走扱いは厳しい状況に。
13:00過ぎ
修理が完了しライダーは可部谷から川口へ交代。
スタッフ達の拍手で送り出したが喜びも束の間、川口がS時でまさかのストップの情報。
マジか。修理は問題無く直ったはず。見落としがあったのか?
スタッフが迎えに行き、パドックからマシンを押してピットまで回収した。
エンジン回りに残っていたオイルが掃除しきれておらず、(後にピットインし確認した際に発覚)それが熱により白煙が上がっていたようで安全を考慮してマシンを止めた。
13:40
ピットにあるほぼ全てのパーツクリーナーを使用し、念入りに清掃しエンジン掛けて熱を入れて確認を繰り返しようやく再スタート。
状況は先程より更に厳しくなったが(完走扱い)応援してくれているファンの為にも諦めるわけにいかない。
川口が順調に安定した走りを見せピット内も安堵の様子。
14:27
川口が順調に周回を重ねる中、可部谷がメカニックや初めて8耐決勝を走る岡田にマシンやコースの状況を伝える。
かつてチームメイトだった可部谷と岡田。
誰よりも熱いライダーである岡田をよく知っている可部谷は冷静に走るようアドバイスをした。
14:34
ルーティン(予定通り)のピットインで川口から岡田へライダー交代
YICの学生達は練習の成果を発揮し素早く確実な作業をこなす。学生達の魂のピット作業を映像でご覧ください。
まさかこのピット作業がこの8耐最後になるとはこの時誰も思いもしなかった。
14:40
2分14秒から15秒台という好タイムで周回する岡田。
ついには予選タイムを上回るタイムを叩き出す。
かなり調子がいいみたいだ。
岡田は普段、全日本ロードレース選手権のST600クラスで600ccのマシンに乗っていて、この8耐の時だけ1000ccに乗り換えてタイムを出している。
600ccと1000ccは乗り方が異なる為乗り換えが難しい中タイムを刻むというのはなかなか出来る事じゃない。
モニターにも、東コースではトップチームに付いていく岡田が映しだされる。
その走りは素晴らしいが、ピット内は少し心配な様子。
しかしその心配は的中してしまう。
15:05
岡田がホームストレートに戻って来ない。
セクター3の通過は確認出来た。
タイミングモニターには、
「No.69 CRUSHED T15」の表示。
T15(ターン15)とは130Rでかなりの速度で回るコーナーだ。
ピット内が一瞬で凍りつく。
ライダーは無事なのか?
130Rで転倒したという事以外ピットには何も情報が入って来ない。
時間だけが過ぎる。1分がやたら長く感じる。
ライダーは?とにかくライダーの安否が気になる。
いても立ってもいられないチーム員はピットで帰りを待つくみとレッカー到着を待つ組、ライダーとマシンの状態を確認しに行く組の3つに別れてそれぞれ向かった。
15:30
ライダーとマシン状態確認組からパドックからは見えないと連絡がきた。
現地観戦に来ていたありとあらゆる知り合いに連絡を取ってみた。
その時、場内実況が「ゼッケン69の山科カワサキが激しく転倒、マシンを押して戻るのはかなり厳しい状況です!」
その続きの情報がこない。
15:40
どうする事も出来ないままもどかしい時間だけが流れた。
再び実況「山科カワサキが再び動き出したという情報」
岡田はマシンを押し始めたようだ。
マシンを動かしているという事はライダーはひとまず無事だ。 心配のひとつは消えた。
15:45
関係者から東のショートカット付近にマシンが止まっている画像と岡田がオフィシャルが話をしている様子だという連絡が入る。
それと同じ頃オフィシャルにレッカーで回収出来ないのかという質問に対して、「チェッカー後にしかマシンの回収が出来ません」
可部谷はレッカーで回収出来たのに。
マシンが回収出来ないと修理出来ないから、このままだとレース続行不可能となる。
監督とチーフメカ等の首脳陣で厳しい決断をしなければならない。
15:50
転倒から既に1時間経過している。
その頃岡田はピットに戻りたいとマシンを押していたが、現状では無理だとオフィシャルに説得され、
そのやり取りが暫く続いていたようだ。
まだまだ暑いこの時間帯、ライダーの体調が心配だ。
ついにチームはリタイヤを決断する。
マシンが無理でもライダーだけでも帰ってきてほしい。
レッカー待機組に連絡してピットからも急いで東ショートカット付近へ向かう。
15:55
ピットから東ショートカット付近はずっと緩やかな上り勾配になっている。
スタッフ誰もが汗タグになりながらライダーの元にたどり着いた。
そこには大破したマシンの横で座り込みうなだれているライダーがいた。
メカ「もういいから、戻っておいで。」
岡田「マシンとピットに戻りたい。ピットに戻れば皆んながマシンを直してくれる…」
そんな岡田にチームがリタイヤを決断したことが告げられた。
岡田は泣き崩れた。
迎えに行ったスタッフ達も思わず涙が流れた。
ただ、とにかく無事で良かった。
ピットに帰ろう…
16:00
ピットに戻ると、
おかえりヒデ!(普段岡田はヒデと呼ばれてる)
無事で良かったよ!
皆んなが温かい言葉で迎えると、岡田はまた泣き崩れた。
16:40
ライダーは念の為メディカル(医務室)へ。
腕を少し痛めたものの幸い異常は無かった。
それと同時刻に正式にリタイヤ届けを提出。
その直後、レース中の転倒によりセーフティカーが導入された。(コース上にペースを抑える為の先導車が2台出て、コースコンディションが良くなるまでゆっくり走る)
そのセーフティカーが出たタイミングで大破したマシンを回収する事が出来て、マシンがピットに戻って来た。
なんだよ!!ちくしょー!!
戻って来るからリタイヤもしなかったし、マシン直してまたコースに戻せたのに!
【レース中のマシン回収(レッカー)には条件があり、コース上を走らないとピットに戻れない場所と、通路を通ってピットに戻れる場所が有り、130R辺りはコース上となる為、レーススピードの時は回収出来なかったよう。】
戻ってきたマシンはフロントホイールが大きく変形しマシンを押せる状態ではなかった。
17:00
チェッカー後、今年はピットで打ち上げをやろうと注文していたオードブルが届いた。
岡田はまだ自分を責め、レースクィーンを含め全てのスタッフに謝り続けた。
傷ついたマシンもひとりで掃除し続けた。
19:00
ゴール前、打ち上げをはじめる。
少し切ない乾杯。しかし皆がやり切った笑顔で溢れていた。
19:30
レース開始8時間が経過しチェッカーフラッグが振られ、一緒にゴールを迎えるはずだった各チームを労いました。
表彰式後の花火がとても綺麗で、必ずリベンジしてやる!!という気持ちが湧きました。
こうして、山科カワサキの悔しい悔しい夏が終わりました…。
終わり。
✄-------------------‐✄ここまで。
いかがでしたか?山科カワサキ公式Twitter(X)中の人の力作を私の文も少し入れてお届けしました。
やっぱり8耐は暑い暑い言いながら現地で観戦が一番だと強く思いました。