「ごぞんじ」の浮世絵作品には3枚続きの3枚それぞれに一人ずつ人物が描かれている。
人物のそばの余白にそれぞれ役者名が書かれているので、3人が歌舞伎役者であることがわかる。左から沢村訥升、瀬川菊之丞、坂東三津五郎とある。
ちなみに歌舞伎役者=男性なので、中央の女性は実は女形であることになる。
歌舞伎役者の名前(名跡)は引き継がれていくので個人をさす場合は「〇代目 沢村訥升」のように言う。
だが、この「ごぞんじ」には「〇代目」という記述はないので、浮世絵作者の国芳(一勇斎国芳=歌川国芳)の活躍した年代と同時代の歌舞伎役者と照合する必要がある。
この「描かれている歌舞伎役者の同定」については次の機会に。
3人の歌舞伎役者がそれぞれどんなしぐさをしているか。
まず、
一番左の沢村訥升が鰻屋の姿をしているのはこれまでにもとりあげたことがあるし、ほかのブログなどでも紹介されている。
「ごぞんじ」より
鰻屋に扮する沢村訥升
「みえ」を切るように顔をぐっと左に向けていることを除けば、あばれるウナギをつかむしぐさや右手に構えるうなぎ包丁、周囲の道具類までかなり詳細かつ忠実に描かれている。
右手のうなぎ包丁を立てて持っているのも、一見ポーズ(見栄)をとっているようにも見えるが、実は包丁の柄でうなぎの頭に釘を打ち込もうとしているところなので、ウナギをさばくしぐさのひとつであるとわかる。
鍬形蕙斎『職人尽絵詞』
店の奥でウナギをさばいている亭主が包丁を立てて持っている
もちろんその包丁をたてたポーズが歌舞伎役者の描写としてかっこいいからと選ばれた可能性は十分あると思う。
中央の瀬川菊之丞は左肩に縄でくくった新巻鮭をかつぎ、右手にやっこ凧を提げている。
この新巻鮭とやっこ凧から、この「ごぞんじ」が正月の情景を描写したものだとされている。
「ごぞんじ」より
奴凧と新巻鮭をもつ瀬川菊之丞
一番右の坂東三津五郎は背中を向けていて手元は見えない。右肩の白い布は手ぬぐいだろうか?右手に丸い風呂敷包みを提げているが江戸風俗の知識がないとこれが何なのかはすぐにはわからない。
「ごぞんじ」より
坂東三津五郎