財務相「悪い円安」発言について | gab-log

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経済学に無知なることは罪ではない.しかし無知なるままに経済問題を声高に論じることはまったく無責任であるといえる.(ロスバード)

TwitterID 男前先生 @_dt4u / 所属機関組織に無関係の個人としての不定期落書き / すべては良識に基づきます

 今般の円急落について鈴木財務相が「悪い円安」と表現した。

 

 日本円は露ルーブルともに急落している。ロシアの場合は経済制裁がその原因だが,日本円の場合は単純に価値の低下,信用低下が原因だ。無理もない,世界基軸のUSが利上げをしているさなかの「金融緩和継続」が日銀から宣言されているからだ。そしてその日銀も当座預金残高は533兆円しかない。

 ここで打つ手がないことは拙稿で既に述べているのでこちらでは書かない。

 

 

■インフレが現実のものとなる

 

 日本は法規制の強化によってほとんど技術を外国に売ってしまった。いまや国産とは名ばかりの輸入品を私たちは売り買いしている。自動車などは純国産などほとんどないほどだ。

 内需を拡大しようにも,もはや企業にとって「ヒトを雇う」という行為そのものがリスクだ。超優秀な人材は引っ張りだこかもしれないが,そうでない人たちは入りたくもない企業の椅子取りゲームをしているようなもので,これは好きでもない相手に告白しまくってようやく手に入れた不本意な恋人のようなもの。しかも然程の愛情を注がれることもないから不幸だ。

 

 ここにようやくデフレ脱却即ちインフレがやってくる。インフレ大好きっ子は歓喜するだろう。悲願のデフレ脱却なのだから…!!おめでとうございます。

 

 残炎なことに「庶民の味方」といわれたものほど輸入依存度は高い。ラーメン,牛丼,安いトンカツ,そば,うどんに焼肉定食まで。昼ごはんはTKGくらいしか打つてはないだろう。そして電力などエネルギーは今以上に高騰するだろうからこれはセルフ経済制裁みたいなものだ。エネルギー価格は流通にも影響を及ぼす。安いものなどもはや日本には残されていない。

 少し前まで110円で買えた物が125円になるのだからこれに耐えうる企業はきちんと内部留保していた企業に限られる。幸いわが国の大企業は異次元の金融緩和によって低金利長期のカネをたんまりと留保しているのでそう易々とは潰れない。義歳者は中小零細企業とそこで働く人々だ。

 

 円はそれほどに下落しているのである。インフレになってよかったですね。

「これは悪いインフレだ キリッ」なんて冗談を言わないようにしましょう。それこそ大笑いです。

 

 

■プラザ合意

 

 かつてのバブル景気は所謂「プラザ合意」によるドル安誘導から円高に移行したことで日本経済が活況になったのである。ワイキキビーチに面したホテルのほとんどが,また海外企業や他国の象徴たる建物まで日本人は買い漁った。今では考えられないような田舎の土地にすら数千万円の値がついた。

 

 今回のプチバブルは日銀が金融緩和したことで始まった。なにしろ超低金利でカネが調達できるのだから土地も買えるし建物も買える。また日銀が買い支えてくれるから株にもカネが流れ込んだ。これは私の予言通りになった。

 そこに円の急落である。日銀は金融緩和を辞める意思がない(≒やめられない)から,購買力平価が50年前の水準まで下がっていても止めることができない。日本の労働力の値段,企業価値も急落したことになるので他国の労働者を笑えない。日本人とその資産がディスカウント状態なのだ。

 

 なにしろ購買力平価が50年前水準である。

 

 一家に一台カラーテレビ,という時代で,マイカーは当たり前のことではなく,ビデオデッキなんて金持ちの家にあるかどうかという時代背景だ。牛肉のステーキを「ビフテキ」と呼んで珍重していたらしいから,今より遥かに「豊かさ」のレベルが違う。この当時と購買平価が同等だというのだ。

 

 そもそもプラザ合意で絶好調だった日本に対し,USは牛肉とオレンジの輸入解禁を迫った。いま当たり前のように食っている牛肉,オレンジジュースはその時の合意があってこそだ。

ただ日本人はお馬鹿さんが多かったので,みかん農家が潰れるだの日本の畜産が壊滅するだの大騒ぎしていたが,現在はそれをきっかけに「和牛」というブランドが誕生し,みかんは輸出までしている。

重商主義のお馬鹿さんは未明を恥じるべきだろう。(TPPのときもバカが沸きましたね)

 

 今回はセルフでプラザ合意ならぬ,ジャパンディスカウントを実施しているようなものだ。

国内(円)で売るより外国(ドルやユーロなど)に売る方が儲かるなら,日本国内は後回しで輸出に依存する,50年代60年代の高度成長期のような貧しさもあり得るかもしれない。日本の労働力が海外向けになるということだ。…あれ? 高度成長期信奉者がいたような気が…。

 

 

 円安に酔いも悪いもない。現象だ。

 

 今回,タチが悪いのは発行元の日銀があっぷあっぷだということで,来年度も政府に国債を押し付けられることが目に見えているのが悲劇だ。再来年度もそうだろう。当座預金残高はその頃どうなっていることやら。

 

 まあ,賢いMMTerの方々や国債無言論の皆さんがいる日本だ。お手並み拝見である。